車内で2人 ページ26
すごく楽しかったからなのか帰るのが少し寂しく感じる。
まだ、一緒にいたいな。
そんな事を考えていると無口になってしまっている自分がいて気づけば家の前。
そうなると、ああ、もっと話せばよかった。なんて矛盾したことを考え始める。
「もう着いちゃったね」
『はい…』
「なんか楽しかったからバイバイ寂しいなあ」
佐久間さんも同じように思ってくれてたんだ。
『私のお礼だったのにずっと運転していただいた上にご馳走までしていただいて…ありがとうございます』
「俺、運転好きだし、隣に笑顔のいっちーがいてくれることが最大のお礼だから大丈夫!」
『それはあんまりお礼になってない気がします、が?』
「そんな事ないって〜。俺すっごい楽しかった!満足!ありがとね。ほんとに」
『それならいいんですけど』
腑に落ちないが佐久間さんが一生懸命訴えてくるのでいいということにした。
「またデートしようね」
『…』
「すいません、調子に乗り」
『また誘ってください』
「え」
『私も楽しかったので。佐久間さんとまた…お出かけしたい、です』
「え、ほんとに?」
『ほんと、です』
「嬉しい」
気づいたら佐久間さんに抱きしめられていた。
ふわりと香る柔軟剤のような匂いにドキドキして、行き場のない両腕が、抱きしめ返すべきか、何もしないべきかと宙をさまよう。
「今度は遊園地ね!」
そう言ってガバッと体を離し私の目をまっすぐに見る佐久間さん。
『何歳なんですか…』
至近距離で見つめられることが恥ずかしくて目を逸らし、ついそんな事を言ってしまう。
心臓の音、佐久間さんに聞こえてるんじゃないかな?ってくらいにうるさい。
「俺?28歳」
『わかってます』
会話が途切れ、降りなきゃいけないと思うのに帰りたくない気持ちで思うように動けない。
でも、帰らなきゃ。
『本当に今日はありがとうございました。また、月曜日に会社で』
ぺこっと頭を下げて降りようと決意した時、佐久間さんの手が私の頬に触れ優しく撫でる。
それにピクッと反応する私。
「Aちゃん」
『…っ』
不意に名前を呼ばれて佐久間さんを見る。
「ちゅー、してい?」
あの時と同じだけど、違う。
吸い込まれそうな、まっすぐな目。
黙って目を伏せると佐久間さんは距離を詰めてきて、そのまま静かに一瞬だけ唇が重なった。
「おやすみ、Aちゃん」
『…おやすみなさい』
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作者名:涼-suzu- | 作成日時:2021年2月10日 17時