雨予報でも心は快晴 ページ3
職場に向かうため今日も朝から満員電車に乗り込む。
ドアが閉まると人の波が押し寄せてきて潰されそうになる。
「すいませ…って、一条？」
頭上から聞こえた声に顔を上げると目の前に岩本さんが立っていた。
『お、お、おはようございます』
「おはよ。大丈夫？」
『へーき、です』
そう答えるのに精一杯だった。
岩本さんは私が苦しくならないように壁に手をついて少し隙間を空けてくれた。
…壁ドン状態じゃん。
なんて考えてドキドキが速くなる。
まあ仮に隙間を空けられずぎゅうぎゅうにされたとしてもドキドキするんだけど。
なんとか生きたまま(大袈裟)職場の最寄り駅に着き、ドアが開くと人が雪崩のように降りてきて足元がふらついてしまう。
「あぶな」
こける！と思っていたのに、岩本さんが私の腕を引いてくれていたので転ばずに済んだ。
『…ありがとうございます』
「いーえ。転ばなくてよかった」
ニコッと笑うこの顔に私は弱い。
いいなあ、麻里菜さんは。
この笑顔を独り占めできちゃうんだもんな。
一緒に出社して自分の部署にたどり着くと佐久間さんが元々大きな目をさらに大きくして私と岩本さんを見ていた。
「佐久間おはよ」
「おはよー」
『おはようございます』
「一緒に来たの？」
『電車で偶然一緒だっただけです』
「照が電車なんて珍しい」
「今日、夕方から雨らしいんだよ」
「なーるほどっ」
体を鍛えることが趣味だという岩本さんは普段自転車通勤なのである。
夕方の雨予報よ、ありがとう。
おかげで(？)今日の仕事は捗り、残業なしで帰れることに。
オフィスを出ようとすると岩本さんに呼び止められる。
「途中まで一緒に帰ろ」
『麻里菜さんは？』
「なんかトラブって遅くなるから先帰っててって言われた」
『そうなんですね』
喜んじゃいけないのに、嬉しくなってしまう私をどうか許してください。
「雨、ギリギリ耐えたな〜」
『ほんとですね』
行きと同じように電車に乗り、私が降りる駅までは2駅。
岩本さんとお話しながら帰る時間はあっという間で2駅がいつもより短く感じた。
『私、次の駅なので』
「え、俺も」
まさかの同じ駅。
自転車で普段来てるからそんなに遠くないとは思ってたけど。
そして、岩本さんのご厚意に甘えて家まで送ってもらうことになった。
『ここです。送っていただいてありがとうございました』
ぺこりと頭を下げる。
「俺も、ここ」
『…ええええ！！！！』
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作者名：涼-suzu-
| 作成日時：2021年2月10日 17時
