気づかないで ページ12
「Aちゃん、ちょっといい?」
『はい』
お昼ご飯を食べて部署に戻ると麻里菜さんに呼ばれて給湯室へ。
「ごめんね急に」
『いえ、何かありましたか?』
「Aちゃんって、照のこと…好きでしょ」
『え…?』
「最近仲良く話してるのよく見るから、そうなのかなっ、て。いや、私の勘違いならいいの!」
ああ、悟られるな、私。
『岩本さんのことは…先輩として尊敬しています』
耐えろ、耐えるんだ、私。
『それ以上の感情はありません』
お願い、バレないで。
「そっか、よかった」
『当たり前じゃないですか。岩本さんには麻里菜さんがいます。私は2人とも尊敬の意味で大好きな先輩です』
「ごめんね、変なこと聞いちゃって」
『いえ』
麻里菜さんが出ていくと同時にその場にへたり込む。
泣きそうなのをぐっと堪える。
まさか、直接聞かれるなんて。
そんなに距離…縮まってるのかな?
私と岩本さん。
麻里菜さんに、不安な思いはさせられない。
バレたら、何もかも終わりだから。
気をつけないとな。
そこから岩本さんと話すことを控えるようになった。
無視するとか、愛想悪くするとかじゃなくて早めに話を切りあげる、とか、そういうこと。
「一条さん元気ないっすね」
仕事終わり、デスクでボーッとしていると隣に座っていた後輩の目黒くんが私の顔を覗き込む。
『別にそんなことないよ?』
私の目を見て心配そうにする目黒くんは…なんと言うか…顔がいい。
「俺、相談乗りましょうか?」
『悩んでるわけじゃないよ、別に』
「誰かに話したらスッキリするかもしれないですよ?」
『隣に座ってる後輩が漢字も分からなくてポンコツなのっていう相談だったらどうする?』
「…すいません」
『冗談よ』
目黒くんとそんなやりとりをして会社を出る。
いつものように電車に乗って家の最寄り駅で降りると頬に冷たいものが当たる。
『げ、雨じゃん』
激しくなる前に、と走って帰るも間に合わず土砂降りになってしまった。
『今日雨とか言ってなかったのに』
家に着く頃にはびっしょりになっていて気候の変化が激しい秋に体はこたえていた。
『寒すぎ』
岩本さん、濡れずに帰れたかな。
『…麻里菜さん車通勤だし、大丈夫か』
とりあえず急いでシャワーを浴びて体を温めることにした。
393人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:涼-suzu- | 作成日時:2021年2月10日 17時