プリンセスと9人の騎士

episode:26(Tatsuya.F) ページ27

｢あ〜らまぁ。大切な姫さん傷だらけにしてくれちゃって｣

｢誰だ？お前｣

『…ふっ、か？』

深く被っていたマントのフードを少しあげるとウインクをする。

｢いやぁ監視官ってあんなに弱っちいの？｣

『ふっか…！』

｢姫〜？遅くなってごめんね。助けに来たよ〜！｣

ふっかとは別の声が王室に響き渡る。

『阿部先生…！』

｢監視室から阿部がお送りしまーす｣

｢おい！監視室へ向かえ！｣

｢来ても無駄だよ？監視官たちは全て外に追い出したし、俺にしか開けられないロックかけちゃったもんね。みんな俺の手の内。ふふっ｣

｢黒い阿部ちゃん出てきちゃってんな…｣

『ふっか』

｢おおっ｣

私はふっかの腕に飛び込んだ。

ふっかのいつもつけてる香水の香りでいっぱいになる。

抱き締め返してくれるふっかはあの頃と変わらない。

ふっかは私が産まれる前からお城に出入りしている人。

小さい時から母子家庭で育ってきたふっか。

父親の顔は覚えていないと言う。

生活をするためにやっぱり母親が仕事に出なきゃいけなくて構ってもらった記憶はない。

1人で家にいるのは暇だから街に出てやんちゃをする日々。

そうでもしないと自分に注目してもらえないから。

1人で世界に取り残された気分になりそうでそれを誤魔化すために悪事を働いて、近所の人に怒られる。

それ以外の自分の存在の確かめ方がわからなかった。

でも、そんなふっかを変えたのは父上だと言う。

まあ恥ずかしい黒歴史だ、と小さい時のことを詳しく話してくれないからどのくらいやんちゃだったのかは分からないけど小さい時からおしゃべりが好きでよく父上が話し相手になったのだそう。

父上が相手をしてくれることがわかってからやんちゃはパタリとなくなり、お城に来ては父上にお話をする。

それがふっかの子どもの時の楽しみだったらしい。

ふっかは舘さんと同じように気づいた時には近くにいる人だった。

私への愛情がすごくて鬱陶しいと思う時もあるしよくしゃべるうるさい人って思うことも多々ある。

それにおしゃべりが故にうっかりなところもあって私に幾度となく怒られている。

だけど、ふっかにはたくさん助けられた。

落ち込んで泣いてる時、武道の稽古が上手くいかなくて悔しくて泣いてる時、お前は泣き虫だなっていつも優しく抱きしめてくれていた。

ふっかの香りに包まれるとすぐに泣きやむし、また頑張ろって思えるんだ。

私に元気をくれる人。

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