戻れないから

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みんな大人なんだな。

結婚する人、親になった人、起業した人。

そりゃそうか。

もう30代だもんね。

私はどれにも当てはまらない。

学生の頃に漠然と思い描いた理想とする30代にはなれてない気がする。


「起業してみるのもありか」


小さく呟いてビールを飲み干した。

次は何を頼もうかとメニュー表を開いたら私の隣に誰かがドカッと座る。


「…よ、モテ男」

「ふは、久しぶりの第一声それかよ」

「モテ期継続中?それとも第2波?」

「5波目くらい」

「…そうですか。なんか飲む?」

「同じのでいい」


メニュー表から目を離すことなく久しぶりに会話した彼の声は高校の頃よりほんの少しだけ低くなっていた。

どうやってあの女性群から抜け出してきたんだ?

たぶん…涼太だろうな助けたの。


「すいませんビール2つで」


店員さんに伝えてチラリと翔太を見れば彼もまた私を見ていて、視線が合うと目を泳がせて俯いた。

周りに人はたくさんいるはずなのに、なんだか2人しかいないような空気感が妙にくすぐったい。


「仕事、何してるの?」

「実家の花屋」

「へぇー、結局継いだんだ」

「うん」

「あんなに反発してたのに。男が花屋とか!って」

「あー、まあ…」


高校の頃の翔太はとにかくとんがっていて親に反発しまくりだった。

私的には翔太が花屋で働いているところを見てみたいと当時から言ってたから嬉しい。

…見れずにここまできてしまったけど。


「今度翔太のとこにお花買いに行く」

「育てられんの?」

「え、ナメてる?」

「無理だろ、お前みたいなガサツ」

「翔太にできるんだから私にもできるし」

「…ナメてんの?」

「ふふ、ナメてる」

「お前なぁ…」


思ったより普通にしゃべれてることに一安心。

とりあえず届いたビールで乾杯しておいた。

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