サッカー部の目黒くん

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土曜日、バイト先へ行くといつもは私より遅い康二がもうすでに来ていて休憩室でスマホゲームをやっていた。


「おはよ」

「おー!おはよーさんっ」

「今日着くの早いね」

「いうてさっき着いたばっかりやで?」

「そっか」


自分の荷物をロッカーに入れて振り向くと康二に腕を引かれ、強制的に康二の隣に座る。

スマホゲームは、もう辞めたらしい。


「びっくりした…」

「こないだ、よかったな」

「こないだって?」

「めめと、距離近なってたやん」

「…うん」

「あん時のAの顔めちゃくちゃ赤くなってて乙女やったな〜」

「うるさいなぁ。そういうことは言わなくていいのっ」

「もう、遠くから見てるだけやと物足りひんやろ」

「…そんなこと、」


人間とは欲深い生き物で、その時はここまででいいって思ってても、そこから1歩踏み込んでしまうと次から次へとほしくなる。

少し話せた、ただそれだけなのにもっと話したいと思ってしまう。

もっと知りたいと思ってしまう。


「そんなこと、ない」


だけど康二にからかわれるのが気に食わなくてよく分からない意地を張ってしまう。


「ふーん?」

「な、なによ」

「人気者のめめも大変やけど、Aも大変やなぁって思ってな」

「好きになっちゃったし、仕方ないじゃん」

「…せやな。しゃーないよな、好きになったもんは。好きになろう思って好きになったわけちゃうし」


嫌いになれるなら、なったほうが楽かもしれへんな〜なんて天井を見上げる康二。


「え、康二も恋してんの?」

「んー、まあそんなとこやけど…ええねん、俺は」

「諦めちゃうの?」

「んー…今はええねん。その子が幸せそうやから」


切なく笑う康二を見て、上手くいくといいねという言葉は心の中にそっとしまっておくことにした。

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