愛だけで、息はできない ページ48
抱きしめてい身体が不自然に強ばった。顔の模様はだんだんと薄れて見えなくなった頃、悠仁が表に出てきた感触がした。
「………A?」
「おかえり、悠仁」
親愛の意味を込めて、ぎゅっと抱きしめる。悠仁の両手はふよふよと宙をさまよって、それから私の背中に回った。
「………お前は、」
「ん?」
「……………Aは、死なないよな」
ポカン、思わずマヌケな顔をしてしまった。目の前の悠仁は泣きそうな顔で私を見つめていて、多分旦那様と会ってきたのだろうと思った。あの人は私が何をしようとしているか理解している。それを悠仁に教えたとしても不思議では無い。だって旦那様は、私の生を何より望んでくれたから。
「………死なないよ」
「ッ、だよなぁ」
「ただ、旦那様と眠るだけ。ずっとずっと、二人でいれるところに行くの」
「………それを!死ぬって言うんだろ」
「泣かないでよ、悠仁」
耐えきれなくなったと大粒の雫がポロリ。知ってる、悠仁は優しいから私がいなくなったら悲しむこと。でも、私もあなたが死ぬのは悲しいの。ごめんね、身勝手で。
「大丈夫、旦那様の罪は全部私が持っていくから。悠仁は心配しないで。ただ伏黒や野薔薇と笑ってくれてたらいいの。何のしがらみも呪いもない世界でさ、幸せになってよ、お願い」
「止めろよ、」
「ずっと私を守ってくれた悠仁を、今度は私が守るの」
「止めろよ」
「私、悠仁の為ならなんだってできるよ。この世で一人だけの家族なんだから、」
「止めろってば!」
叫ぶように悠仁が呻いて、痛いくらいに私を抱く腕が強くなった。肩が濡れる感覚が、どうしようもなく悠仁の感情を伝える。
「俺は、お前といたいよ。ずっと俺がお前を守るって、ずっと一緒にいるって、約束しただろ!」
…………なあ、A。
「………私、悠仁の家族になれて嬉しかったの。一生かかっても返しきれない愛と恩を、悠仁は私にくれた」
「返さなくてもいいよ、だから」
「悠仁!」
………私、悠仁も旦那様もいない世界で生きていけないよ。
いつの間にか私もポロポロ泣きながら、悠仁にしがみついていた。悠仁が私の生を願って、私も悠仁の生を願って。それなのに、何でこんなにままならないんだろう。どうして、笑い合えないんだろうね。
どうしようもない私たちは、いつまでも抱き合ったまま動けずに。ただただ時間だけが、私たちを置いて走った。
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lala - 宿儺と夢主との愛がもうなんというか美しすぎてほんとに好きです……歪んだ愛そのものを表しているかのよう…そして何より文の作り方がお上手でとても読みやすかったです。更新楽しみにしております。無理はなさらないよう頑張ってください! (2022年1月24日 2時) (レス) @page48 id: d69b352aad (このIDを非表示/違反報告)
ジョリ - 2人の愛とか、夢主ちゃんの思いやりとかで泣きそうになりました。更新楽しみにしています(╹◡╹)無理の無いように頑張って下さい(*´꒳`*) (2022年1月9日 20時) (レス) @page48 id: aa78d32f78 (このIDを非表示/違反報告)
優月(プロフ) - この作品とても大好きです (2022年1月9日 18時) (レス) id: 2ec0497ee9 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 83EPHNUQX3O3FI8さん» コメントありがとうございます。不快な思いをさせてしまっていたら申し訳ありません。直ぐに修正します。 (2021年12月19日 13時) (レス) @page40 id: 125efbe70f (このIDを非表示/違反報告)
83EPHNUQX3O3FI8(プロフ) - この小説で宿儺の株が上がりました。あと、未亡人って差別用語だと思います。 (2021年12月19日 2時) (レス) @page48 id: 5b2f0bd76c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2021年1月17日 16時