前世は両面宿儺の妻だった。２【呪術廻戦】

Double suicide ページ43

ダメだダメだダメだ！だから深入りしないって！大切なモノが増えたらダメって！見捨てれなくなったら、私は真っ直ぐ旦那様と生きれない！君たちが死んでもずっと忘れられない。


ふと、景色が変わった。真っ白い空間から、暖かな春の学校の校門に。立てかけられた看板には入学式の文字。


｢A｣
｢ゆ、うじ｣
｢これからもよろしくな！｣


高専じゃない制服に身を包んだ悠仁が、私に手をのばす。これは都合の良い幻覚だ。呪いの存在しない世界で君が幸せに生きる。私は、旦那様と一から出会ってまた夫婦になる。そんな、存在しない記憶。


＿＿ないなら、創ればいい。


｢…母さん｣


母が、目の前に立つ。優しげな声で、私を呼ぶ。頭を撫でる、抱きしめてくれる。暖かい。


｢ずっと不思議だった、どうして貴方が呪われているのか…その正体が愛、なんて。悟が聞けば笑いそうね。ねえ、A。貴方は信じないかもしれないけれど、私は貴方を愛しているわ。悠仁君も日向さんも、貴方を愛している｣
｢私は旦那様だけでいいよ｣
｢まだ認めないつもり？｣


ぎゅう、力が強くなる。


｢貴方は、ずっと一人で生きていたの？前世はそうなのかもしれない、けれど今の貴方は違うでしょう？ずっと共にいて支えてくれた唯一無二の人を、貴方は見捨てれない｣
｢そんなことない｣
｢あるわよ。貴方は、私と日向さんの娘なんだから｣


初めて、母を抱き締め返した。大きいと思っていた背中はいつの間にか小さくなっていて。声を出して泣く。戸惑う事もせず、母は頭を撫でてくれる。私、本当は貴方に甘えたかった、愛してるって感じなくなるくらい伝えてほしかった、もっと一緒にいたかった。


｢うん、私も。ありがとうね、私の娘に生まれてくれて｣


ごめん、なんて母は言わなかった。だんだん薄くなっていく母を、私はいつまでも抱きしめていた。もう、涙は止まった。


私が望んだ存在しない世界。ないなら創ればいい。うん、分かってるよ。こうするのが一番だって。


旦那様が悠仁だけを殺す事が可能なら、その逆も然り。


決して一人にはさせませんよ、旦那様。


真っ白な空間に、術式で穴を空ける。……やっぱり、私を包んでいたのは貴方の呪力。私の腹に眠る貴方の心臓が、私の内を侵していた。


『A！何故！』


私、貴方の為なら死んでもいいって常々思っております。私にとっての人間は貴方様だけ、貴方様もそうでしょう？お互い、人間のまま一緒にいようじゃありませんか。

君→←約束、呪い

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す