前世は両面宿儺の妻だった。２【呪術廻戦】

約束、呪い ページ42

酷く、眠たい。夢の中にいるはずなのに、私の形が曖昧になっている。私という存在が、まるで何かに侵されて、夢の中で自分の姿さえあやふやになった。どんな姿、どんな声、性格、旦那様を愛する心。ゆっくり、上書きされるように、侵食する。


不思議と寒くはない。暖かい、包まれている？これは、旦那様だろうか。私はあの方の腕に抱かれると、どうしようもなく安心してしまうから。酷く心地よい体温は、私の眠気をみだりに誘う。


＿＿A、A。永遠に、共にいようぞ。お前が果てる時は、俺も果てる時。どんな姿になっても、俺はお前を放さない。お前も、俺を放すな。


何を、そんな事。わざわざ仰らなくても、承知ですよ。


……あれ、旦那様？お姿が……いえ、久方ぶりに見たので、前の世の貴方様を見るのは。


・


立っていた。真っ白な空間で、私は何をするでもなくぼうっと目の前の景色を眺める。ずっと、ずっと。


ふと、私以外の気配を感じた。ハッと目を見張れば、二人の男女が存在しているのが分かった。


あれは、私と悠仁？随分と小さい姿になっている。私の過去の記憶だろうか。それとも幻？


小さい私は、鮮やかに染められた袋を悠仁に渡す。ソワソワして、どこか不安そうに。…ああ、思い出した。悠仁にパーカーをプレゼントした時だ。プレゼントを受け取った悠仁は、大袈裟なくらいに喜んで、暫くの服装はパーカー一色だった。私は、それがとてつもなく嬉くて。いつの日か、悠仁は私にはなくてはならない家族になっていた。


なんで、今思い出すんだろう。


｢A。ずっと俺たち、家族だかんな｣
｢……うん。私、悠仁がいなきゃダメだし｣
｢じゃ、爺ちゃんのとこ帰ろ｣


手を繋いだ。小さな手を二人で握って握り返して、小さな契を交わして。ずっと一緒、それは呪いのようだ。けれど、ささやかな約束だった。


＿＿ああ、ごめんね悠仁。その約束は守れないの。私、君を捨てるの。君が死んだら旦那様も死ぬって言うけど、そんな事はきっとない。旦那様は確実に君を殺す、身体を乗っ取り、君の魂を消し去る。私は、君がいなくなっても旦那様と幸福に生きていく事ができる。いつか、君の事も忘れてしまう。


……本当に？


ああ、ああ！なんて浅ましい！君を選ばないなんて言いながら、私は君に生きていてほしいと思ってる！願わくば、伏黒も野薔薇も、くしゃくしゃになるまで、君の隣にいてほしい。


なんて、身勝手なのに。

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