ご都合呪術で前世の人格に戻った話【番外編】 ページ37
「呪われた?」
「うん、Aがね。怪我はないみたいだけど、様子がおかしい。多分、精神に干渉してくるタイプの呪いだ」
部屋の隅でぼうっと椅子に腰掛けるAに目をやる。窓の景色を眺め、コチラには目もくれない。挙動一つ動かず、あの頃のに戻ったかのようだ。熱を持たない、人形のようなAに。
そっと近づく。俺の影がAにかかり、それでもコチラを見る事はない。
……ああ、どうしたんだよ。いつもなら、笑って迎えてくれるだろ、なあ。
「あの方の事なら喋らないから」
息が、詰まった。確かに殺気を込めて、Aは言葉を発した。触れようとした手は、宙に浮いたまま行き場をなくす。
「拷問でもなんでもするといい。私は何一つ話さないし、あの方がお前らに負けるとも思えない」
「……A」
「軽々しく名を呼ぶな、呪術師」
肺が凍ったように、息が出来ない。なんで、なんでお前、俺をそんな目で。お前も呪術師だろって言いたいのに、言葉が喉に張り付いて、
「あの方って宿儺の事?」
「それ以外に何があるの。私が両面宿儺の妻であるから拐ったんでしょう」
「……悠仁、仮説が一つあるけど聞きたい?」
こくり、脳はほとんど機能してなく、ほぼほぼ脊髄反射で頷いた。
「このAは、悠仁と過ごしたAじゃない。今のこの子は、宿儺と生きている頃のAで、」
___正解だ。
「いい子で待っていたようだな、A」
「……旦那様?」
ゆらり、ゆらり。Aの瞳は俺と宿儺を往復する。そして、そっと手が伸ばされた。行先は、宿儺。
「いかがなさったのですか」
「なあに、お前が心配することではない」
相変わらずの甘い声。Aにしか向けられることはなく、聞いてるこっちがイライラしてくる。
「コイツは俺の器だ」
「……器?」
やっと、目が合った。初めてAは俺を真っ直ぐに見つめた。殺気は籠っていない、けれど温度の感じさせない瞳。
「あなたが、旦那様の器。お目にかかれて誠に光栄でございます」
「へりくだらなくともよい」
「それはなりません。この方は、旦那様の体でもあるのですから。丁重に扱わないと」
「そうかそうか」
「……何が可笑しんだよ」
笑う宿儺にイライラが募る。
「これがお前という不純物を取り除いたAだ」
「なっ!」
「ただひたすらに、俺だけしか映さない」
俺だけの妻。
ケヒヒ、笑い声が耳に遺る。
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lala - 宿儺と夢主との愛がもうなんというか美しすぎてほんとに好きです……歪んだ愛そのものを表しているかのよう…そして何より文の作り方がお上手でとても読みやすかったです。更新楽しみにしております。無理はなさらないよう頑張ってください! (2022年1月24日 2時) (レス) @page48 id: d69b352aad (このIDを非表示/違反報告)
ジョリ - 2人の愛とか、夢主ちゃんの思いやりとかで泣きそうになりました。更新楽しみにしています(╹◡╹)無理の無いように頑張って下さい(*´꒳`*) (2022年1月9日 20時) (レス) @page48 id: aa78d32f78 (このIDを非表示/違反報告)
優月(プロフ) - この作品とても大好きです (2022年1月9日 18時) (レス) id: 2ec0497ee9 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 83EPHNUQX3O3FI8さん» コメントありがとうございます。不快な思いをさせてしまっていたら申し訳ありません。直ぐに修正します。 (2021年12月19日 13時) (レス) @page40 id: 125efbe70f (このIDを非表示/違反報告)
83EPHNUQX3O3FI8(プロフ) - この小説で宿儺の株が上がりました。あと、未亡人って差別用語だと思います。 (2021年12月19日 2時) (レス) @page48 id: 5b2f0bd76c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2021年1月17日 16時