【中編】 ページ31
日が沈んでも女が起きる気配はない。寝息の音さえ聞こえず、胸が上下している事を確認しないと生きているか死んでいるか分からない。
いつ見ても美しい女だ。死に顔でさえ値が着くほど、この女は人を引きつけるナニカがある。まあ、親からの愛情は与えられなかったみたいだが。死に際でさえ、女は俺のことを考えていた。
……それは、悪くない気分だ。
・
起きた気配がして、適当に寝かせた部屋に入る。まず目に飛び込んで来たのは…布団にうつ伏せになった女だった。
やはり、死を目の前に感じて恐れの感情が出たのだろうか……ああ、つまらん。お前はその程度だったのか。もう生かす価値もない。
けれど。逃げようと立ち上がった女の顔は、まるで幸せだと言わんばかりに緩んでいた。
「何をしている」
「いえ何も」
俺が声をかけるとすぐに布団に逆戻り。その姿はまるで、飼い主を待つ愛玩動物。だが、
「こんばんは」
ただ、愛らしいだけでは無い。そこには一人の女がいた。人を惹き付けるナニカ、愛らしさだけでは到底説明がつかない。笑った顔を、美しいと思った。それ以外、考えられなかった。護ってやりたいとさえ__今、俺は何を考えた?
引き寄せられるように女に近づく。女には瞬きの間、案の定目をパチクリさせ、俺の言葉に反応を返した。
女の瞳は依然として俺を映していた。俺だけを瞳に映して、愛しいと言わんばかりに細める。
何故怯えない。俺はコイツに優しさを分け与えた事はない。殺されかけた時点で俺を憎んでいてもおかしくはない。なぜ、何故。お前は俺をそのような瞳で見る。
美しい、その瞳で。
「私が貴方をお慕いしているからです」
ドクン、心臓が脈をうった。血管が張り裂けたのではないか、そう感じた。
俺をそのような目で見る人間はいなかった。俺もそれで良かった。けれど、けれど。お前は、俺が好きだと
、好きだから側にいたいと。
ああ、なんて心地が良い。
「飽きたら殺す」
それでも尚、心底嬉しそうに笑う女に俺も心でほくそ笑んだ。
飽きたら、お前の全てを残さず食そう。骨まで残さず、血の一滴たりとも誰にも渡さん。
全て俺のもの。
赤い、形の良い唇に吸い付く。甘い、どこも甘い。もう逃がさない。お前が他の誰かに目移りしようものなら、そいつをなぶり殺そう。
顔を赤くして倒れた女の髪をすく。
面白いものを見つけた。殺されかけても尚、俺に愛を囁く、一人の女。
俺だけの、魂。
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lala - 宿儺と夢主との愛がもうなんというか美しすぎてほんとに好きです……歪んだ愛そのものを表しているかのよう…そして何より文の作り方がお上手でとても読みやすかったです。更新楽しみにしております。無理はなさらないよう頑張ってください! (2022年1月24日 2時) (レス) @page48 id: d69b352aad (このIDを非表示/違反報告)
ジョリ - 2人の愛とか、夢主ちゃんの思いやりとかで泣きそうになりました。更新楽しみにしています(╹◡╹)無理の無いように頑張って下さい(*´꒳`*) (2022年1月9日 20時) (レス) @page48 id: aa78d32f78 (このIDを非表示/違反報告)
優月(プロフ) - この作品とても大好きです (2022年1月9日 18時) (レス) id: 2ec0497ee9 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 83EPHNUQX3O3FI8さん» コメントありがとうございます。不快な思いをさせてしまっていたら申し訳ありません。直ぐに修正します。 (2021年12月19日 13時) (レス) @page40 id: 125efbe70f (このIDを非表示/違反報告)
83EPHNUQX3O3FI8(プロフ) - この小説で宿儺の株が上がりました。あと、未亡人って差別用語だと思います。 (2021年12月19日 2時) (レス) @page48 id: 5b2f0bd76c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2021年1月17日 16時