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「ちょっと前にね、この子に似たぬいぐるみを失くしちゃったの」
ほんの数週間前の事。
幼稚園の年少くらいの頃から一緒だったクマのぬいぐるみを、小旅行先で失くしてしまったのだ。
それはお父さんからのプレゼントで、お父さんが私の為に随分と前からわくわくしながら準備していたのを覚えている。
あまりにお父さんの楽しそうな表情が分かりやすくて、お母さんとくすくすと笑ってたっけ。
だからこそ、失くしてしまったのが悲しくて申し訳なくて、大泣きしてしまった。
お母さんもお父さんも、大丈夫だよって許してくれたけど、私は何時まで経っても泣き止めなくて、そんな私にお父さんはこう云ったのだ。
『見つけに行ってくるから、大丈夫だから、良い子にして待ってろ』
そして何処かへ行くお父さんの背中を見送ったのが最後、まだお父さんは私とお母さんのもとに帰って来ていない。
少し経ってから、お母さんに知らない処に連れて行かれた。
何でなのか黒い服を着た人達に囲まれて、お父さんの写真の前には細長くて煙が上がっている何かが置いてあって。
その場の人達は、悲しそうにお母さんと何かを話していくのだ。
この雰囲気は、どうしようもなく苦しい。
だから私はお母さんから少し離れて、写真の中のお父さんを眺めながら、本人は何処に居るんだろうと、ずっとその事を考えていた。
「私がぬいぐるみを失くしたから、だから怒ってどっかに行っちゃったのかな。泣き止めないから、
胸の中の言葉を吐き出そうとする度に、何かに引っかかって上手く出てこない。
涙が出て、声が引きつって、苦しい。
「また、似てるぬいぐるみを見つけて、もう大丈夫だよって笑ったら、今度は、絶対に失くさないからっ、て、云ったら、お父さん、帰ってくるかなって。そう・・・・・・思ったの」
「だから、このぬいぐるみだけは、嫌なのっ!」
視界が白く歪む。
お姉ちゃんが何度も涙を拭ってくれるけど止まらなくて、やっぱり泣き虫だと嫌になる。
「君のお父さんは怒ってないぞ、何も君は悪くないんだから。お父さんの事を知っている訳では無いが、怒っていたとしたら、わざわざ君の為に探しに行ったりしないだろう?」
「なら、何で帰って来ないの?会えないの?」
純粋に湧いて出た疑問をぶつけると、お姉ちゃんは一瞬言葉に詰まったが、すぐに返事が返ってきた。
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風と衣(プロフ) - もなかさん» もなか様ありがとうございます!面白いと言って貰えて今とてもニヤニヤしております(笑)今回のオリジナル展開でも中原さんの活躍が出てきますので、どうぞお待ちください! (2022年9月18日 20時) (レス) id: 11e2fd2044 (このIDを非表示/違反報告)
もなか - 作品拝啓させていただきました!とても面白かったです!私は中原さん推しなので夢主ちゃんとの絡みの話はニヤニヤしちゃいました(笑)更新楽しみにしています (2022年9月18日 17時) (レス) id: bae08d35f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風と衣 | 作成日時:2022年9月7日 0時