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・(太宰さん視点) ページ30

Aちゃんでは無いかも知れない。
だけど、もしかしたら。
今は、その可能性があるだけで行動に移せる。

水の中でその人物の腕を掴み、引き上げる。
やはり、間違っていなかった。

水を含んで重たく張り付く服には目もくれず、引き上げたAちゃんの顔を覗き込む。

ぴたりと閉じられた(まぶた)、冷えた体温、何となく死人のような雰囲気が不安で、願うようにAちゃんの手首を握って脈を測ると、幸い脈打つ感覚がある。

落ちて割とすぐに引き上げた為、そこまで水も飲んでいなさそうだ。
気付かないうちに息を止めていたらしく、脱力すると同時に大きく息が溢れる。
らしくもなく、本気で焦った。

「はぁぁぁ、・・・・・・良かった」

存在を確かめるようにAちゃんの躰を強く抱き寄せる。
織田作もAちゃんも居ない世界なら滅びてしまえば良い。

だってAちゃんは私の——

Aちゃんの服をくしゃりと握る。
あぁ、もう惹かれているなんてものじゃ無かったのだ。

惹かれているどころか、とっくに溺れて抜け出せないところまで来てしまったらしい。

人形のように動かない表情が崩れた時の、穏やかな笑顔が綺麗だった事。
揶揄うと意外とすぐに照れるところも、余計に揶揄いたくなる程可愛かった事。

聞かれたくない事を聞かないでいてくれる優しさがあって、だからこそ少しだけ過去の事を話しても良いかと思えた事。
見透かすような瞳が何処か悲しげで、寄り添うように柔らかい光を宿していた事。

何を思い出しても、確かに惹かれていた事実しか出てこない。

あぁ、駄目だ。
好きだなんて枠組みに収まりきらない程に、Aちゃんの事が愛おしい。
何で気付いたのが今なのか。
こんなにも大きな感情になっていたのに。

私の想いなんてAちゃんは何一つ知らない。
其の(まま)死ぬなんて絶対にさせるものか。

「ぐ、ごほっ、ごほっ」

その時、Aちゃんは苦しげに咳き込みながら少し水を吐き出す。
そして開いた目からは焦がれていた琥珀色が覗き、不思議なくらい心が浮ついて笑みが溢れた。

やっと戻ってきた。
私の腕の中にAちゃんが居るのだ。

執着など無駄だと分かっているのに、何時(いつ)かするりと手から溢れ落ちていく存在である事に変わりは無いのに、どうしようもなくこの事実が嬉しい。

莫迦(ばか)!帰ってくるのが遅すぎやしないかい?もう待ちくたびれてたよ私・・・・・・」

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風と衣(プロフ) - もなかさん» もなか様ありがとうございます!面白いと言って貰えて今とてもニヤニヤしております(笑)今回のオリジナル展開でも中原さんの活躍が出てきますので、どうぞお待ちください! (2022年9月18日 20時) (レス) id: 11e2fd2044 (このIDを非表示/違反報告)
もなか - 作品拝啓させていただきました!とても面白かったです!私は中原さん推しなので夢主ちゃんとの絡みの話はニヤニヤしちゃいました(笑)更新楽しみにしています (2022年9月18日 17時) (レス) id: bae08d35f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:風と衣 | 作成日時:2022年9月7日 0時

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