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ぽんぽんと背中を叩く手は大切なものを扱うかのように優しくて、何だか私には勿体ない気がする。
「忘れてくれ。用事を思い出しただけだ」
「今更それを信じる訳ねェだろ。・・・・・・泣いてるくせに」
私だって訳が分からないのだ。
何度も泣いてきた筈なのに、何で涙が出てくるのか未だに分からない。
それに、この涙は今までとも違う。
姉さんが死んだ時も、師匠が死んだ時も、先程泣いてしまった時も、悲しい涙を流す時は何時だって一人の時だった。
一人で泣いて、一人で泣き止んで、そんな事をしていたらいつの間にか涙が枯れていて。
泣いてる時もその後も、胸に空いた穴から冷たい風が吹き込むように空虚だった。
なのに、今はその穴を埋めるような安心感があるのだ。
傍に中也さんが居てくれるからだろうか。
だが、同時に情けない涙を見られた事が怖くて一歩下がって距離を取ると、其の儘地面に崩れ落ちた。
「A!?」
恐怖と安心感という正反対の感情に板挟みにされて、どうしていいか分からずに頭がぐちゃぐちゃになる。
涙が次から次に流れ落ちて、その醜さに更に涙が溢れた。
悪循環だ、涙なんか存在しなければいいのに。
涙が無ければ、無表情のおかげで苦しみも人にバレる事はないのだ。
「見るな!見ないでくれ・・・・・・嫌いになったなら何処か行って良い!だからっ」
「なんで嫌いになんだよ。泣けば良いだろうが。少なくとも俺は、気を許してくれたと思えて嬉しいぜ」
それでも、弱いところを晒すと足元が無くなってしまったかのような不安感、感覚が全て遠のいて動けなくなるような感覚に襲われる。
国木田さんが私の過呼吸の対処をしてくれた時だって、本当は怖かった。
弱い自分を知られてしまったら、幻滅される気がして。
それに、もう一つ。
「私は強くならないといけないっ!」
「泣かないのは強さじゃねェよ」
ならどうすれば良いのだ。
棄てたくなる程弱い心を、どうやって誤魔化せば良い。
結局泣かない他にないと私は思う。
「なぁ、弱いところくらいあって良いじゃねェか。完璧な人間なんて居ねェよ」
「そのくらい、分かってるんだ・・・・・・」
誰だって何処かで弱さを持っていて、歪な部分があって、だからこそ互いに補い合う。
それも人という生き物が愛おしく思える理由なのだろう。
それでも私は私の弱さを許せない。
今だって、卑屈な事を云う自分がどうしようもなく憎い。
なのに、どうしてこうも弱さを引っ張り出されてしまうのだ。
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風と衣(プロフ) - もなかさん» もなか様ありがとうございます!面白いと言って貰えて今とてもニヤニヤしております(笑)今回のオリジナル展開でも中原さんの活躍が出てきますので、どうぞお待ちください! (2022年9月18日 20時) (レス) id: 11e2fd2044 (このIDを非表示/違反報告)
もなか - 作品拝啓させていただきました!とても面白かったです!私は中原さん推しなので夢主ちゃんとの絡みの話はニヤニヤしちゃいました(笑)更新楽しみにしています (2022年9月18日 17時) (レス) id: bae08d35f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風と衣 | 作成日時:2022年9月7日 0時