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no-side
穏やかな風の吹く夜の草むらから、草の擦れるがさがさという音を出しながら男が出てくる。
その男はずっと息を殺していたらしく、息苦しさから解放されようと大きく息を吸い込むと、疲れたように長い息を吐き出した。
そして邪魔くさそうに草を掻き分けて行った先は、Aの師匠の墓の前。
一体何の用事があるのか、そもそもこの
男は誰なのか。
男はじっと、何をする訳でもなく師匠の墓を見下ろしていたかと思うと、少し躊躇った後に震えている唇を開く。
「君は、お人好し過ぎて
男の目には何故かきらきらと光るものが流れていて、困惑気味に無理矢理口角を上げていた。
それは笑みと云うには歪で、瞳の奥には水底のような悲しみと共に痛々しい憎しみが渦巻いている。
「失って気付くなんて、間違いなら良かった」
男は誰にも伝える気のない言葉を、唯ポツリポツリと落としていく。
今は、男自身にしか話している言葉の意味を理解出来ない。
「君も居ない今、俺は”あの目的”しか生きる意味が無いんだ。一生俺を恨んでよ、それでもきっと俺は止まれないけどね〜」
傍から見れば何の意味も分からない言葉を呟きながら、男は師匠の墓に触れて俯く。
それは祈りの様で、懇願の様で、悲しみに項垂れている様で。
「何で、こんな事報告してるんだろうね」
何処か不気味な乾いた笑い声を響かせながら空を仰いだ男は、月明かりの下、長い時間その場に留まっていた。
───
眩しい程に輝く夜の横浜の街からまたもや離れて、中也さんに指定された店に足を踏み入れる。
店内は前回と同じく重厚感のある造りとなっていて、暗めの照明の光は適度に緊張を解してくれた。
やはり薄暗いくらいが一番落ち着く。
視線を動かすと既に中也さんがカウンター席に座っていて、頬杖を着きながら店内の装飾品を眺めている。
改めて、恐ろしい程にその様子は絵になるなと感心を覚えた。
「よぉ、A」
不意に此方に視線を向けた中也さんは、扉の前の私に気が付いてひらひらと手を振った。
それに誘われて、床に荷物を置いて中也さんの隣に座る。
「済まない、待たせたか」
「気にすンなよ、俺もさっき来たとこだ」
お決まりとも云える言葉を口にして中也さんは朗らかに笑い、たった今目の前に置かれた、琥珀色と透明の層になっているお酒を一口含んだ。
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風と衣(プロフ) - Rio*さん» ありがとうございますm(_ _)mゆっくりと休ませて頂きます!今コロナ感染も多くなっておりますので、この時期の体調の変化にはお気を付け下さい!コメントは励みになるので、嬉しかったです(*^^*) (2022年7月14日 9時) (レス) id: 11e2fd2044 (このIDを非表示/違反報告)
Rio*(プロフ) - しっかり休んでくださいね😢ご自分のペースで更新頑張ってください!! (2022年7月14日 0時) (レス) id: 31d091d700 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風と衣 | 作成日時:2022年7月10日 0時