水葬〈Waku.M〉 (ページ4)

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湧がどんな思いで、この島に残る選択をしたのか私には分からないけど

ずっと隣で湧を見てきた私は、少しずつ大人になっていく彼が羨ましかった。

私にはやりたいことも、守りたいものもない。

高校生もラスト一年なのに、将来のこと何も決めてないよ。

島を出て、大学に行って、普通にOLでもして、そのうち結婚？

それが、普通なんだろうか。普通の幸せってやつなのかな。

分からないけど私が本当になりたいのは、別にある気がした。

それはもしかしたら、湧の隣でないと叶えられないことかもしれないし

この島の中でしか出来ないことかもしれない。

だから

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「私、まだ島を出るつもりありません」

そう言った私を見て、中村先生はふっと笑った。

レンズが入ってるんだかいないんだか分からない眼鏡を、クイッと指で持ち上げる。

ああ、それ見てシホちゃんが「れあたんかっこいい！」って騒いでたなあ。

「元木と同じこと言うんだな。もしかしてお前ら結婚でもするの？」

「けけけ、結婚？！？！」

「ばか、冗談だよ。真に受けんな」

まさかまさか。私の気持ちが周りにバレてるのかと思ってびっくりしちゃった。

結婚どころか、好きって言うことも湧には伝えてないし、周りも気づいていない。

中村先生は、変なとこ鋭いし厳しいんだ。

だからたまに色んな意味でドキッとする。

「本当にいいの？大学進学がこの島を出る最後のチャンスじゃん。こんな狭い島でお前何するつもり？ニート？」

「先生、それ仮にも教師が生徒に言うセリフじゃないと思います」

「いいんだよ、俺は。実際同期でこの島に残ってるの俺くらいだし」

中村先生は、たまにびっくりするくらい綺麗な顔をする。

それは大抵、昔のことを思い出している時で

……人には色々、あるもんね。

どうして一人だけこの島に残ったのか、私は訊ねなかった。

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