ゲームオタクがまたトリップしたら普通になってた １

毒占欲 後編 ページ35

いつもの落ち着いているぶっきらぼうな声は、年相応な男の子のように少しいじけている声色が含まれていた。

「昨日何故Aは、あぁ言ったんだ？」

そう聞くしきかんどのの言葉の意図が掴めなくて、私は「何が？」と聞き返す。するとしきかんどのはそれに答えず、話し続ける。

「………………僕は、やはり耐えられそうになかった」

一度言葉を切って、私を抱きしめる力が思わず強くなるしきかんどの。


「本当は今日、クラウスのやりたいようにやらせるつもりだった。……明日も公平にはするつもりだったんだが、どうしても昨日から思う事があった。

　もし、Aが僕以外を選んだら。いつか、別の男が欲望のままにその身を貪るのだとしたら。

　……そう思うと苦しくて、羨ましくてたまらなかった」

そこまで話して、私はようやくしきかんどのの言葉の意味を理解する。

「……ようやく、立場も関係無くこうして会えると言うのに。どうしても軍に居た時の考え方ばかりが浮かんでしまう、力でねじ伏せるだけでは……本当に欲しいものは手に入らないと学んだ筈なんだが」

本当に、自分にも他人にも正直だな、と思う。良くも悪くも……それでいて真っ直ぐだ。顔には出ないから考えている事が分かりにくいけど、本当にある意味ではわかりやすい。

「嗚呼……これが迷うという事か。心というのは難しいな」

「……迷わない人間なんて居ないよ。それにもし私が３人の立場なら、ライバルがナツルでも簡単に身を引いてたね。

　ミツキだったら、尚更。何もしないで苦しんで、逃げてたかも。……知って傷つくのは嫌だし、それならやらないで後悔する方がマシだから」

そう言って目を向けると、しきかんどのは何故そうするのか分からないと言った様子で見てくる。

「とにかく、どんな形であっても正直に言えるしきかんどのは凄いと思うよ」

少なくとも、大丈夫って自分に言い聞かせ続けて壊れそうになっていた私よりかは。

「……どんなに醜い劣情を抱いていたとしても、か？」

まるで受け止めて欲しいと言うような口ぶりで、片方ずつ色の違う両目でじっと私を見つめる。まるで愛していると言うように。

「……難しい質問だなぁ」

私は思わず目を逸らすと、そう答えた。

「そろそろ、寝ないとね」

そう言うと、しきかんどのは「あぁ」と返事をして抱きしめ直して顔を私の体に埋める。

明日はどんな一日になるんだろう。


そう思って気にしないようにしても、何故か私の顔は熱かった。

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