case3 第一章 ページ3
no side
「逃げられちゃったな」
ハハっ、と渇いた笑い声が倉庫内に響く。
ここにいるのは２人。広い倉庫に２人きりと言うのは、少し寂しいものだ。
――あのお姉さんとなら、そうでもなかったかもしれないけれど。
先ほど刑事のお兄さんに思いっきり蹴られた彼は、蹴られた腹が痛むのか、いまだに立ち上がれないでいる。蹴られた場所が悪かったのだろう。イテテ、と情けない声を出しながら呻いている。
「斗亜、ここ離れよう」
「……どこに、行くんですか」
この場所へ来たのは、彼の指示通りだった。何も分からずただただ車に揺られ、気づけばこんな寂れた場所へ来ていた。
「今度は、ちゃんとした場所やで。暖房のきいたあったかい部屋」
確かに、お世辞にもこの場所は快適とは言えない。
警察に追われている身なのだから文句は言えないが、こんな場所で寝泊りするくらいなら、快適な少年刑務所で数年クラス方がマシだとすら思う。
「じゃあ、行こっか」
少し痛みがひいたのか、腹を少し抑えながら、彼はゆっくりと立ち上がる。
人差し指をクイッと曲げて「来いよ」とジェスチャーをされたので、大人しくついていくことにした。
――本当に、この人を信用して良いんだろうか。
彼は、あのお姉さんを連れ去ったことを、
『あの人』にこっぴどく怒られていた。
通話をスピーカー出力にしていたから、『あの人』の怒鳴り声が部屋中に響いたものだ。あの時、もしあのお姉さんが目を覚ましていたら、『あの人』の正体に気づいただろう。
そんなリスクを冒してまで、指示にないことをやってのけたこの人についていくのは、いささか不安がある。
「……正門くん」
「ん？」
「ボクを外に追い出した後、何してたんですか」
「んー？ それを言うには、純粋な斗亜にはちょっと早いかなぁ」
ニヤニヤと笑うこの人は、正直気持ち悪い。合意なしに何てことをしていたんだ。
あのお姉さんのことを想うと、かわいそうで仕方がない。
そんなに酷いことをしたこの人を、許すわけにはいかない。
突然憎悪の感情が止まらなくなって、体が熱くなった。まずい、放射反応だ。
この人に炎を放射しないよう、手のひらを誰もいない空間にかざした。
……ハズだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 380人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
とあ(プロフ) - ぽん酢さん» そんな風に言ってくださって嬉しいです！ 頑張って続き書きますね！ (2020年8月31日 18時) (
レス) id: 697481dbf3 (このIDを非表示/違反報告)
とあ(プロフ) - すずさん» ありがとうございます！ 頑張りますね！ (2020年8月31日 18時) (レス) id: 697481dbf3 (このIDを非表示/違反報告)
ぽん酢(プロフ) - 更新ありがとうございます！このお話1番ハマっていて今日もまた1から読み返しちゃいました…(笑)星何回も押したいくらいです！お時間がある時また更新お待ちしてます(^^) (2020年8月30日 16時) (レス) id: 954d7c587f (このIDを非表示/違反報告)
すず - この作品いつも読ませて頂いてます！ホントに面白くて大好きです。無理のないように更新待ってます！頑張ってください！ (2020年8月16日 17時) (レス) id: 9182a87b37 (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - とあさん» お返事ありがとうございます！楽しみにしています！ (2020年7月23日 22時) (レス) id: 1ca1725196 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：とあ | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/Yoshikosan0313
作成日時：2020年7月5日 18時
