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拝啓
AA様。いかがお過ごしでしょうか。
私もついに、冷房をつけることとしました。あまりに暑いので、むしろ外出をする方が辛いです。
もはや、この情勢にならずとも、外出自粛をしていたのかもしれません。
さて、私は手紙を受け取った時、夏だというのに、体の震えが止まりませんでした。
自ら手放したあなたから、手紙が来るなんて。
正直、最後まで手紙を読む気が起こりませんでした。
でも、今年の花火大会が中止になったというのを見て、読んでみようかと思いました。
そして、久しぶりにあの日のことを思い出しました。
忘れもしないあの日。
初めて私は禁忌を犯したのです。
ご存知かはわかりませんが、教師が生徒を車に乗せて移動するのは基本禁じられています。
しかし私は、自身の邪な思いを断ち切ることができず、あなたを誘いました。
あの日は演劇部の大会でしたから、本当なら友達と仲良く会場から帰るご予定だったでしょう。
「用があるから、友達には先に帰ってもらいなさい」と、私は言いました。
なんて卑劣なやり方なのでしょうね。
ですが、花火を見ながら無意識につないでいた掌。
今でも忘れられないその感覚が、罪悪感を消し去ってしまったのです。
私は、そんな愛しいあなたを置いて、逃げました。
あなたを愛していたのは確かでした。
いいえ、過去形は不自然でしたね。
正確には、
今でもあなたを愛しています。
しかし、逃げた私に、そんなことを言う資格はありません。
覚えていますか。
いつだったでしょう。森鴎外の「舞姫」の話をしましたね。
つい先日、読み返してみたのです。
改めて見ると、主人公は最悪なヒトですね。
愛していたはずのエリスを、己の名誉のために捨てて祖国に帰ったのですから。
私も、最悪な人間です。
どうしても「未成年と恋愛したセクハラ教師」の名前がつけられることを恐れてしまいました。
結局、自分が一番なのです、私は。
Aさん。
あなたの大切な時間を、私ごときが奪ってしまい、申し訳なく思っています。
どうか、私のことなど忘れて、私なしの人生を謳歌してください。
敬具
令和2年7月20日
AA様
正門良規
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作者名：とあ | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/Yoshikosan0313
作成日時：2020年6月29日 22時
