【本編】拝啓＿。私は【日光隊.月光隊.十二日月】

八話 【月光隊/月之音叶乃/響@雫3318】 ページ11

呆然とした。

己の甘さに。
己は、他人より幾らか鬼を慈しむ人間だった。
…だって。
彼女は人間として産まれ落ちた筈なのに。
…たまに思う。
自身がやっていることは、大量の無差別殺人と、何ら変わりないのでは？

甘い、甘い、甘い。
彼女が飽きたのは、己の中途半端な優しさで。
当主として居て良いのかと、本気で思ってしまう。
心が、折れそうだ。


『私は強くなる。私のままで』

「…！！！」

唐突に、己の過去の発言がフラッシュバックした。
ああ、思い出した。
私の立ち方。
私の在り方を。

『私は腐っても、月之音叶乃だから。』

「…私は私のままで。」

貴女達を救う。
壊された大麻を拾う。
キン、と甲高い音が鳴った。

△△△△△

シュウウウ…と口から漏れでる音。
体が軽い、妙に暖かい。
視界が澄んでいる。
…追い付ける。

「勝手に飽きられるとは、いささか不愉快なものだね」

パッと宙返りをして、尼伊月の目の前に立った。

「なあ尼伊月、君は強くなれ」
「…それは、人間をもっと食べろ、ということ？それとも、己の体を差し出すと言うこと？」
「…君の解釈に任せよう」

ピリ、と空気が凍る。
肌を刺す緊張感に、冷や汗が出た。
だが、まだ。
もう少し…もう少し。

「この体、食べたいのかい？」

胸に手を当てて見上げた。
瞬間、頬に鋭い痛みが走った。
長い爪に切り裂かれた柔肌。
抵抗する隙も無く、襲われる。
首元に噛みつかれる。
そう感じた。

(ああ)
(今だ)

ピタリ、と尼伊月が動きを止めて、小さく呻く。
つう、と己の手の内から血が流れる。

「大麻とは何か、ご存知で？」

彼女の背中には、大麻の一部…日輪刀が突き刺さっていた。

「紙…私の場合は日輪刀を束ねた祓い道具だよ。これで鬼の魂ごと抜き取るんだ。猫にまたたび、鬼には稀血…悪鬼に対して祓いの救いを…ってね」

ニコ、と微笑む。
背中から腹に掛けて貫通している。
けど傷は治ってきそうだ。
…流石だ。認めざるを得ない。

「覚えておけ。君を殺す女の名前を。…天女に魅入られた者が辿った末路を、知らないとは、言わせないぞ。」

「せいぜい強くなり、私に叩きのめされてしまえよ。 尼伊月 」

ググ、と力を込めて刺す。
深く深く。
もっと、もっと。

大麻の一部を抜いた。

「…今度会ったら、本気で勝負しようか」

この深手だったら再生に時間が掛かるだろう。
その隙を見て、逃げた。

月明かりが照らす中、下弦の伍の元へ向かった。

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