第八十二話 少女の父親 ページ32
「セーラ!」
「―――セイラよ」
「セーラ!セーラ!!」
きゃっきゃと笑い抱き着いてくる幼子。今自分が抱き着いているのが誰なのかを幼子は知らない。それが人間の嫌悪する存在であることを、気分次第で簡単に殺してくるような存在であることを
知らないからこそ無邪気に笑い抱き着いてくるのだ
「―――ラッ!・・・・・・イラッ!」
遠くから男の声が聞こえてくる
「あっ!パパだっ!パパァー!!」
どうやら聞こえてくる声の持ち主は目の前にいる少女の父親のようだ
「―――行きなさい」
この子の近くに自分が居ればなんと言われるかはわかりきっている。少女の背中をそっと押し帰るように促すと立ち上がり男の声がする方向とは逆の道を降りようとする
「・・・?」
しかし歩けない。
ローブを引っ張られる感覚がして下を見ると少女がローブを引っ張っていた
「放しなさい」
「やー!」
「放しなさいと言っているの」
「やー!」
どんどん冷たくなるセイラの声に気付くことない幼子は抗議の声を上げる
「これだから人間の子は・・・」
仕方なくしゃがみ込みその手を外そうとしたが、しゃがんでくれて満足したのか嬉しそうに少女は腕に絡みついてきた
「イザイラッ!もう、走ったら転ぶといつも言っているだろう!」
やっと辿りつき娘の姿を見たのか安心したように怒り始める男
「やー!イジャイラこりょばないもん!」
舌足らずの言葉で抗議の声を上げたイザイラと呼ばれた少女はセイラから離れると男に向かって走って行った。やっと解放されたセイラは何かを言われる前に立ち去ろうと立ち上がった
「え・・・」
立ち上がったセイラの存在にようやく気付いたのか男が驚きの声を上げる
(そうよ・・・人間が私を見れば恐怖に陥る。そして攻撃をする。人間はそんな生き物よ・・・あの子が特別に変だっただけ・・・期待するなんて馬鹿だったわ・・・)
「―――ラ?」
男の声に現実に戻る
「・・・―――セイラ・・・なのか・・・?」
「・・・?」
突然個体名を呼ばれ不思議に思い男の顔を見る。少女と同じ栗色の髪は手入れがされているものの少し跳ねていて、釣り気味の緑の瞳。しかし見覚えのない顔だった。こんな男に名前を教えた記憶はない
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ストゥアート | 作成日時:2017年6月24日 22時