能天気たちの特等席[M] ページ10
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私にとっての特等席なの、と笑いながら言ったそいつに「そーかよ、この能天気」と乱暴に吐き捨てる俺が多分一番能天気だ。
〈能天気たちの特等席〉
日直の日誌を職員室に提出した帰り、校庭でにぎやかな声を出している野球部に気が付いて教室に向けていた足を食堂へと方向転換した。
食堂の脇の学生料金で良心価格の自販機が並ぶ場所にたどり着いていつものように右から二台目の自販機に小銭を滑り込ませる。
カランカランと乾いた音がして、ボタンが点灯した。
どこにでもある凡庸な、代わり映えしない缶コーヒーの中から同じ缶コーヒーを二本買って、俺は今度こそ教室へ足を向けた。
自分の教室で荷物を担ぎ上げたらそのまま階段を上がる。
多目的室と書かれた看板が下がる教室にたどり着くと躊躇なくドアを開けた。
ガラガラガラと音が響いて、それに気が付いたプリーツのスカートがふわりと揺れる。
同時にさらさらの髪をゆらしてそいつが振り向く。
「あ、潤くん」
「やっぱここにいた」
「ふふ、だって特等席だもん」
そう言ってこちらを一度見ただけでそいつはまた開けられた窓の外へと視線を戻す。
元気な野球部の声が俺たち二人しかいない多目的教室に響き渡る。
「ほら、いつものコーヒー」
「わ、ありがとう潤くん！」
ただの安い缶コーヒー一つなのに、両手でぎゅっと受け取ったそいつが俺を見上げて笑う。
「……別に。俺の分のついでだし」
「うん、知ってる」
いつもと同じように吐き捨てた俺に、そいつもまたいつもと同じように笑いながら言った。
淡いオレンジ色の財布は中学の入学祝に両親からもらったものなんだと前に言ってたのを思い出す。
たった百円、硬貨一枚。
けれどそいつからもらったそれがなんとなく使えなくて、家の貯金箱に貯まっていく。
バカだろ、俺。
そう思うのに、何もできずにまた俺は缶コーヒーを買う。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年11月6日 22時
