臆病者と白昼夢 ページ9
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後輩と駅前で別れた時にもまだ太陽は地平線で二の足を踏んでいて夜の影は遠いままだった。
チュニックの裾をふわりと揺らして去っていく後輩の背中を、俺はなんとなく目が離せないままその小さな背中が人並みの向こうに消えてしまうまで突っ立っていた。
実は私、あの頃二宮先輩のこと好きだったんですよ。
その言葉を聞けるのがもう数年早かったら。
実は君のことが気になってたんだよ。
その言葉を告げる勇気が数年前の俺にあったなら。
結婚するんだと幸せそうに笑う君の横に、俺が立てていたりしたんだろうか。
真夏の暮れ行く太陽の下、脳裏に横から俺を見上げて笑うドレス姿の後輩が浮かんで。
それはすぐに猛暑日の容赦ない陽光にとろりと溶けて消えてしまった。
見えなくなった君の背中に背を向けて歩き出す。
数年前の臆病な俺は、君の隣にいるその男が羨ましくて、勝手にイライラして。
伝えもせずに俺のものにはならないんだとあきらめて。
そんなときに告白してくれたそこそこかわいいクラスメイトと付き合い始めた。
そのころから彼はより一層君の隣にべったりとくっついていて。
俺はそれを見て、あぁほらやっぱり、君は彼のものじゃないか。
伝えなくて良かった。
なんて。
臆病な自分を棚に上げてホッとしたりなんかしていた。
最後の部活の日。
いつもより多く集まったギャラリーの一番前で手を振る彼女を素通りして俺の目は性懲りもなく君の姿を探していた。
けれどやっぱりその中に君は見つからなくて、期待する資格もないのに肩を落とした。
どうにもならない現状も、臆病な自分自身も、吹き飛ばしてしまいたくて。
すべてをぶつけるみたいに全力でバットを振った。
こんな時に限ってボールにかすりもしなかったバットを、俺は勢いのまま地面にたたきつけた。
最近の太陽は暑すぎる。
意味のない白昼夢がどろりと溶けて、夏の終わりを待つ街並みを陽炎のように揺らめかせた。
一度でいいから君と並んで歩いてみたかったこの街の道を、俺は一人くだらない白昼夢を取り残して歩き出した。
(臆病者と白昼夢)
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年11月6日 22時
