コーヒー一杯分の美談 *後編* 《ars》 (ページ7)

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臆病者と白昼夢ページ7

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ちょっとだけ気恥ずかし気に、白い頬をほんのりと染めて。

本人に自覚があるのかないのか、あまりにも優しく微笑みながら。

耳に届いた言葉に思考がフリーズして、「先輩？」なんて今日何度目かの後輩の声に幾度か瞬きをする。

「あ、そう……なんだ…相手は」

なんとか会話を続けなきゃいけないと思って、不自然さのなさそうな質問を返す。

向かいに座った後輩はきゅっと口角を上げると、その口紅で淡く色づいた唇で「先輩も知ってる人ですよ」なんて悪戯っ子みたいに言った。

あのころよりもどこか堅苦しさが抜けて、いい意味でやんちゃな雰囲気を混ぜ込むようになった君は、いったい誰の影響で変わったんだろうか。

真面目で礼儀正しくて、深呼吸のタイミングを教えてあげないといつまでも息をつめて生活してそうな子だったのに。

たった数年の間に魅力的な女性に変身した君は、俺ではない誰を想っていたんだろうか。

「誰だと思いますか？」

「さぁ…見当つかないよ」

「じゃあ、大ヒントです」

もったいぶるみたいにコーヒーを飲む後輩を、俺は固くなった表情で見つめていた。

「私、松本Aになるんですよ」

「……まつ、もと…？」

心の中だけでつぶやいたつもりだったのに、俺の耳に自分の声が届いてあわてて口を閉ざす。

向かいから俺を見る後輩は、また一口その深い色のコーヒーを喉へと流し込んだ。

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