臆病者と白昼夢 ページ4
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近くに学校があるのか、それとも駅前の喫茶店だからか。
窓の向こうを流れる街にはときおり学生服姿やジャージ姿の子供たちが通り過ぎていく。
深い色をしたコーヒーに角砂糖を二つ落としてくるくるとかき回していた後輩は、その窓の外の集団に気が付いて「あ」と声を出した。
「ん？」
「野球部です、練習帰りですかね」
「あぁ、そうかもね」
懐かしいものだ。
実際はほんの数年前まで俺たちもあんな風に街を歩いていたというのに、気が付けばそれはまるで遠い思い出のように俺の日常から姿を消してしまった。
「先輩も野球部でしたよね」
「よく覚えてるね」
「そりゃもちろん、先輩有名人でしたから」
冗談みたいに笑いながら後輩がコーヒーに口を付ける。
俺はまたそれを真似てブラックのままのコーヒーを一口喉の奥へ押し込んだ。
汚れた野球のユニフォームを見ていると、学生時代の部活を思い出す。
自分で言うのもなんだけど俺は確かに目立つほうだったようで、部活をやっているとギャラリーの女子生徒が多数集まってきたりしていた。
それをチームメイトにいつもからかわれたりして、面倒だなとつばを砂に向かって吐き出したりして。
「ギャラリーの女の子、たくさんいましたよね」
「そうね」
「ふふ、認めちゃいます？」
「事実だからね」
くすりと笑う後輩に俺もニッと笑って見せる。
ちょっと自信家っぽいくらいがたぶん俺らしい。
そんな俺がそのギャラリーの中にただ一人の後輩女子を探していたなんてことは、きっとこの後輩の頭の中にはこれっぽっちも思い浮かばないことだろう。
もう忘れたことにしていたそれを思い出したのは、やっぱり夏特有の進みの遅い太陽のせいだろうか。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年11月6日 22時
