さよならエピローグ ページ28
.
放課後の化学準備室にオレンジ色の太陽光が滑り込んで辺りを染める。
問題の採点を終えた貴方は満足そうにうなずくと微笑みながら言った。
「うん、全問正解。やればできるなら最初からやれよ」
「だって、先生に教えてほしかったんですよ」
「……、そうかよ」
あぁほら、困った顔をする。
それをごまかすみたいに伸びてきた手が髪をぐしゃぐしゃと撫でまわした。
「わっ、なにするんですか」
「髪跳ねてたぞ」
「嘘ですよね！」
くすくすと笑う貴方が備え付けの冷蔵庫から取り出した包みを私の前に置いた。
「ご褒美」
「なんですかこれ…」
「料理実習で作ったチョコレートだって。女性の先生方からもらったやつ。俺食べないから食っていいよ」
「……食べないんですか」
「甘いの好きじゃないからね」
きっとその女性たちは貴方に食べて欲しかったんだと思いますよ。
なんて、きっとわかっていて食べないんだろう貴方に言うことはできず、おとなしく包みを引き寄せる。
「ついでだからもう一杯だけコーヒー淹れてやる。それ食って飲んだらそろそろ帰れ」
さっき使った三角フラスコにドリッパーを乗せて、いつもと同じ要領でコーヒーを淹れる貴方を包みを開くふりをしながらちらちらと見ていたら、夕暮れを告げるオレンジ色の光に反射するそれが目に入った。
左手の薬指で輝く、銀色の輪っか。
「……っ」
貴方にばれないように目をそらした校庭では、運動部の生徒たちが道具を片付けているところだった。
もしも、貴方があの中にいるような人だったら。
もしくは私が、貴方に調理実習で作ったチョコレートを渡せるような人だったら。
なにか、違っていたんだろうか。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 80人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年11月6日 22時
