さよならエピローグ ページ21
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その帰り道、私はスーパーに寄ってクッキーの材料を買い込んだ。
学校の先生にそんなものを渡していいのかわからないけど、私は不思議そうな顔をするお母さんを適当に流してせっせとクッキーを作った。
金文字で名前の掘られた折り畳み傘を見たお母さんにそれどうしたのと聞かれて、先生が貸してくれたと返事をした私に、お母さんは大切な人からのプレゼントかもね、恋人とかなんてさらりと言った。
お母さんに言われて初めて、そうかだからこんなにしっかりした傘なのかと思い至る。
それと同時に、櫻井先生が迎えに来てもらうと言っていた知り合いはいつも淀みなく口にしている例の彼女さんなのかもしれないと思って、味見したクッキーがなんとなく塩辛く感じた。
翌日、よく考えたら貸出用のビニール傘があったな、と苦笑いした櫻井先生に私が傘と一緒に差し出したクッキーを、櫻井先生は「ほかの生徒には内緒だぞ」と唇の前で人差し指を立てて受け取ってくれた。
その場で一枚を一口で口へと放り込んで、もぐもぐとかみ砕く。
ごくりと飲み込んだ櫻井先生は「美味いよ」と微笑んで私の頭を撫でた。
教室に戻った後どくどくと鳴り響く心臓がどうやったら収まるのか私にはわからなくて。
ただ櫻井先生が好きだと言っていたミステリの本を急に思い出した。
先生が好きでよく読んでいるというミステリは十年ちょっと前に流行った作家のものだった。
ドラマ化された作品なんかもあって、有名な人のようだけど、私は一冊も読んだことがなくて先生が特におすすめだと言っていた一冊を読んでみるために帰り道に本屋に寄った。
学校の先生に見つかったら怒られるかもしれないけど、一瞬で買って出ればたぶん大丈夫。
そう言い聞かせて文庫の棚から目的の一冊を引き抜いたところで、その作家の新刊が出ていることに気が付いた。
いきなり文庫で登場、とポップの付いたそれを持ち上げて確認した発売日はつい数日前。
もしかしたら先生も読むかもしれないと思って、私はその本も一緒に持ってレジへと向かった。
ドキドキする心臓がなんで音を立てているのか。
どうして急に先生が好きだといったミステリを読もうと思ったのか。
この時の私にはまだわかっていなかった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年11月6日 22時
