コーヒー一杯分の美談 *後編* 《ars》 (ページ20)

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さよならエピローグページ20

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梅雨時のある日、昇降口で空を見上げて突っ立っていた私に通りかかった櫻井先生が話しかけてきた。

「星川、帰らないのか」

「傘、壊れちゃって」

折れた折り畳み傘を見せると「あらら」と笑いながら櫻井先生は頭を掻いた。

「引き返してきたのか」

「二、三歩進んだところで壊れました」

今日は風が強い。

朝は晴れていたから長い傘を持ってこなかったけど、持って行けと言っていたお母さんが正解だった。

私の手にある壊れた折り畳み傘と私の顔を交互に見て、櫻井先生は不意に「よし」と声を出して口角を上げた。

「ちょっと待ってろ」

「あ、先生…！」

いつも生徒に廊下を走るなと言っている櫻井先生がパタパタと走っていくのを私は引き止めることもできず見送った。

戻ってきた櫻井先生は黒い折り畳み傘を持っていた。

持ち手のところにSho.Sと金文字が彫られている。

一目見ただけで高そうだとわかるような、そんな折り畳み傘だった。

それを私に渡した櫻井先生がニコリと笑う。

「これで帰りなさい」

「でも先生は？」

「帰るころには止んでるかもしれないし。止んでなかったら知り合いに迎えに来てもらうから平気」

そう言って受け取りを渋る私にずいとその傘を押し付けた。

「さっさと帰って勉強しろよ」

ぽんぽんと私の頭を撫でた櫻井先生は、それ以上の反論を私がする前に身体を翻してしまった。

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