コーヒー一杯分の美談 *後編* 《ars》 (ページ16)

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能天気たちの特等席ページ16

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いつだか交わしたそんなやり取りを思い出して、思わず「はぁ」とため息をつく。

「だから言っただろ、早くしないと取られるって」

「うん……」

泣きそうな声で、だけど泣くことはしないそいつは誤魔化すみたいに缶コーヒーをぐいと煽った。

ごくごくとコーヒーが喉を滑り落ちる音が聞こえるほど、乱暴にそれを飲み込んでいく。

「おい、そんな一気に飲むことないだろ」

呆れながら言った俺に、そいつはようやく顔をこちらに向けて言った。

「だってコーヒー飲み終わらないと、帰れないでしょ」

いつもきらきらと輝いていたそいつの目が涙でゆらりと揺れている。

俺を上目に睨みつけるように見上げたそいつの目に頭が一気に熱くなって、気が付いた時には俺も一気にコーヒーを飲み干していた。

空になった缶が床に落ちて、カランと音を立てたことには気づかなかった。

俺よりも小さな体を腕の中に引き寄せて、ぎゅうと抱きしめる。

壊してしまわないように気を付けながら、そいつの小さな頭を俺の胸に押し付けた。

ずっと見ていた横顔が見えなくなることは気にならなかった。

「……泣きたいなら、泣け。俺はなにも見てねぇよ」

「……っ、じゅ、く……」

そいつの小さな手が俺の上着をつかんでぐしゃりと歪ませた。

開かれたままの窓からは野球部の声が今も聞こえている。

もう間もなく先輩は部活を引退する時期だろう。

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