能天気たちの特等席 ページ15
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窓の外、俺たちの視線の先でチームメイトとハイタッチを交わすその人から視線を動かさずに、そいつはまた小さく息を吐く。
「二宮先輩、彼女出来たんだって」
「…は」
思わず傾けかけた缶を下ろして横を見れば、悲しそうな顔をしたそいつの横顔にぶつかった。
去年の文化祭から半年以上、この横顔を見てきた。
春になってからはこの場所で、委員の仕事で、想い人を見つめるそいつに気づかれないようにしてその恋する横顔を見つめてきた。
こんなに悲しそうな横顔を見るのは、初めてだった。
「……んなの、ホントかどうかわかんねぇだろ」
「たぶんホント。彼女出来たって、友達には話してるみたいで、それを聞いたって子たちが噂してた」
「でも噂だろ」
カラカラに乾く喉を潤そうと唾液を飲み込んでみるけど、口の中も干上がったみたいに乾いていて上手くいかない。
「ううん……だって、私も二人で手を繋いで歩いてるとこ見たの」
「な…」
泣きそうな顔を隠すみたいに、隣でそいつが俯いた。
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この場所を見つけてからしばらくしたある日、たまたま放課後に多目的室の前を通りかかった俺はそこにそいつの姿を見つけて立ち止まった。
一心に校庭を見下ろすそいつに近づいて声を掛けたら、そいつは「私にとっての特等席なの」と笑いながら言った。
「そーかよ、この能天気」
「能天気って、ひどいよ潤くん」
「だって能天気だろ。こんなとこから見てないで、さっさと告白してこい」
「こ、告白は…ちょっと……」
「はぁ？あの人モテるらしいじゃん、早くしないと誰かにとられるかもよ。あのギャラリーの誰かとか」
「そうだけど……見てるだけで幸せなの」
ぎゅっと手を握りしめて言ったそいつに、俺はため息をつきながら「そーかよ」とまた一言告げた。
自分の想いを自覚しながらそいつに伝えもせずに告白しないのかと問いかける俺のほうがよっぽど能天気なことはわかっていた。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年11月6日 22時
