コーヒー一杯分の美談 *後編* 《ars》 (ページ14)

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能天気たちの特等席ページ14

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「うるせーよ、そんなことで騒ぐな」

「あっ……ご、ごめん…」

きらきらした顔を一瞬で強張らせて、そいつが下を向く。

あぁ、もう。

俺はお前のそんな顔が見たいわけじゃないのに。

イライラする。

俺以外を見て笑うお前にも、そんなお前に当たってばっかの自分にも。

「……コーヒー、買ってくるから。それまでここで待ってろ」

「えっ、ちょっと潤くん」

そいつの静止は聞こえなかったふりをして、俺は一人多目的室を出た。

教室で俺のとそいつのと二人分の鞄をピックアップして、食堂の自販機で缶コーヒーを二本買った。

大人になる途中でまだ子供を抜け出せない俺たちには、甘そうな缶コーヒーがお似合いだと思ってそれを選んだ。

二つの鞄と二本のコーヒーを持って多目的室に戻った時、お前は俺に気づかないほど熱心に俺より遠い場所にいる先輩に恋をする少女の視線を向けていた。

「ほらよ」

「あ、潤くん、おかえりなさい。鞄も持ってきてくれたの？」

「……飲みきるまでだからな」

そいつの言葉にはまともに答えず缶コーヒーを片方押し付ける。

パチパチと瞬きをしたそいつは、やがて嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「ありがとう、潤くん！」

あぁ、これだ。

俺が見たかった顔。

きらきらと笑って見せたそいつが缶コーヒーにそっと口を付けるのを見ながら、俺はなんだか満たされた思いで自分の缶コーヒーを開けた。

なるべくゆっくり飲まなければと、言い聞かせながら一口目を飲んだ。

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