コーヒー一杯分の美談 *後編* 《ars》 (ページ13)

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能天気たちの特等席ページ13

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ある日、教師に雑用を頼まれた帰りにそいつがその部屋を見つけた。

足を踏み入れたのはほんの偶然。

窓が開けっぱなしで声がしていたからってだけだった。

だけど窓に近寄ったそいつは、校庭で活動する野球部を見つけて「あっ」と声を上げた。

「なに、さっさと窓閉めて帰るぞ」

「待ってよ潤くん、二宮先輩が打つところなの」

「……」

こちらをちらりとも見ないそいつの目はただ一心に校庭にいる想い人へと向けられていた。

イライラしながらそれを態度に出さないように気を使って隣に並ぶ。

俺が窓から校庭を見下ろした時、そいつの想い人は華麗なホームランを晴れた空へと飛ばしたところだった。

「わぁっ……！」

集まったギャラリーの女子生徒がわあっと盛り上がる声が遠くでして、隣にいるそいつの声が同じように弾んだ。

ここからじゃ先輩の表情は見えないけど、チームメイトとハイタッチを交わしてる。

その横顔が、この教室からは良く見えた。

「すごい、ねぇ潤くん、二宮先輩すごいね！」

興奮気味に俺の腕を叩くそいつに、ひどく胸の奥がざらつく。

そんな目で俺を見たことないだろ。

また理不尽にそんなことを思って、俺の腕を叩くそいつの手を払い落とした。

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