臆病者と白昼夢 ページ2
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そんなわけで過去資料の入った段ボール箱やら委員会誌やらを箱から出したり逆に収めたりしている俺はいつの間にか一つ年下の後輩と二人きりになっていた。
二つ下の後輩男子は向こう手伝ってきますなんて言ってそそくさと教室を出て行ってしまった。
というかこういう作業をするならもっと男手に声かけりゃあいいのに集まったのが俺たち三人だけってどうなのよ。
と、沸き上がる文句は心の中にしまったまま後輩と並んで作業を続ける。
学生時代いつも正面から見ていた後輩の顔をこうして横から見つめたことは実はあんまりない。
いつだってその場所は、彼のものだったからだ。
手元の資料をめくりながらも俺の視線は時々懐かし気に細められる後輩のまつげが落とす影に気を取られたりしていた。
ふいに後輩が視線に気づくみたいに顔を上げて、少し首をかしげる。
「二宮先輩？」
「…あ、いや、なんか懐かしいなと思って」
「ふふ、そうですね」
柔らかく笑う君の笑顔が、今は俺に向いていることに胸の奥がとくりと音を立てる。
とうに忘れたはずのそれが、ほんのわずか熱を灯した。
それに気づかないふりをしたくて、俺は後輩から視線を外して適当な話題を口にする。
「そういえば、松本は来なかったんだな」
後輩の隣にいつも一緒にいた堀が深い顔立ちの黒髪に金メッシュを入れていたちょっと近寄りがたい雰囲気の生徒を思い浮かべる。
不良とは言わないが、どちらかと言うと言葉や態度が乱暴なタイプの男子生徒だ。
「あぁ、潤くんは今日予定があるみたいで…一人で行っといでって言われちゃったんですよね」
「……え」
意識していたわけじゃないのに息みたいな声が漏れた。
後輩はまた不思議そうに首をかしげて「先輩？」と俺を見上げる。
「いや、松本の予定知ってんだね」
「あ、はい……実は今日来たの、二宮先輩に会えるかもしれないと思ったからなんですけど」
そこで一度言葉を区切った後輩は、会えてよかったですと小さくつぶやいて「二宮先輩」と俺の名前を呼ぶ。
「このあとお時間ありますか？ご報告があるんです」
笑顔で、だけどちょっと真剣な声で、後輩はあのころと変わらない瞳で俺を見上げて言った。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年11月6日 22時
