episode２−６ ページ21
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「……何でもないわけないだろ」
俺は独り言ちた。
ふと２階の廊下の窓から校舎裏を見たら、黒木が横山玲奈とその取り巻きに囲まれているのを発見した。
これは明らか不味いと思い、急いで下に降りた。
叫ぶとあいつらは逃げていった。
とりあえずあいつらは放っておいて、黒木を見た。
俺は驚いたね。
地面には油絵セットが散乱していた。
にも関わらず、黒木は涙一つ流していなかった。
感情をどこかに捨てたみたいに表情に色はなく、けれどもその瞳は深い寂しさや悲しみを宿している。
そんな彼女を見て怖さを覚えた。
「黒木……どうした、大丈夫か？」
彼女の目には俺が映ってなかった。
「あいつら、横山玲奈とその取り巻きだよな……」
黒木はどこか一点を見つめて俺に答えない。
「黒木？……俺からあいつらに注意しようか？」
こう尋ねてようやく俺を見た。
「私は……私は大丈夫ですから。気になさらないで下さい。何でもないですから……」
でも完全に俺を見ていない。
目線は油絵セットだ。
そう言って黒木は立ち上がり、油絵セットを片づけて、去った。
時折痛みで顔を歪ませたのを見逃さなかった。
大丈夫なわけないだろ？蹴られたのだから。
気にするに決まってる。大事な生徒なんだから。
何でもないわけないだろ？そんな感情を殺した表情なのに。
でもそれ以上踏み込めなかった。
そういう義理は俺にないように感じたからだ。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2017年2月24日 9時
