３２ Side Sho ページ32
・
ジャパンカップの馬柱を見ながら思うのは潤のことだ。
先日武岡さんに言ったことを思い出す。潤は自分を映す鏡。自分の出生を知ってからさらに思うようになった。
俺は世間的には知られてないし逃げ所はあるし、結果的に今がある。
だけど潤はどうだろう。彼は美浦に来てからずっとその立場だ。抗いたくても抗えない。
そんな中俺にできることは何だろうと俺なりに考えた結果、潤に電話をすることだった。下らないことを話して少しでも彼の負担を減らしたかった。
火曜には退院できるという。復帰はまだだろうがまずは一歩だ。
「代表？」
「……ごめん。潤のこと考えてた」
「ひとまずは良かったですね」
「まあね。でも改めて俺は外の人間だなって感じたけどね。雅紀やカズに比べたら貢献度は低いなって」
「皆さんは常々4人は1人のために、1人は4人のために動かれてると思いますよ」
「そうかな」
俺たちって周りからどう思われてるのかなと考えるときがある。運の良いことに肯定的に見てくれている人が多いけど一方で友情ごっこと陰で言われたりもする。
こういうときあの人ならどうするのかなと思っちゃうのはもうそういうことだよね。
「櫻井くん」
「吉川照雄さん」
この方は日本の競馬界を引っ張る城山グループの代表だ。立って挨拶をする。
「単刀直入に訊くけどアカシは来年も走るの？」
「はい。そのつもりですが……」
「君が良かったら再来年からでいいからうちのスタリオンで種牡馬になって欲しいんだけど……」
「城山スタリオンステーションですか」
城山SSはリーディング上位の種牡馬が多数いる最大手の種馬場だ。そこにいれば必ずではないが将来は約束されたようなものだと俺は思っている。
「大変ありがたく存じます」
「じゃあそういうことで」
照雄さんは去っていった。
「今の種牡馬オファーですよね？」
今まで城山SSに入った馬もいたけど代表自らのオファーは記憶にない。
「まああれだけの馬を放っとくわけないか」
「皆さんには言いますか？」
「いや……。今は潤のことで手一杯だろうし、有馬終わってからかな」
「分かりました」
アカシは既にG1 4勝をしている名馬だ。父親のタニノギムレットの血を引き継いでいく必要があるしいつまでも現役を続けるというわけにはいかない。引き際には引き際の美学がある。
「……あと1年だな」
俺はぼそっと独り言ちた。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 121人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユタカ | 作成日時：2021年3月24日 8時
