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リハビリの効果もあり馬の背に手を伸ばせるようになったがまだ途上だった。
それでもレースに戻りたいという気持ちが俺を駆り立てた。
だから慣らしていくことにした。
パドックに出てきたときファンからの「おかえり」の声と拍手が温かくて嬉しかった。
その人たちのために帰りたかったんだと思った。
しかし完全に肩は治ってるわけじゃなくて出来る限りのパフォーマンスだったわけだから以前のようには出来なくて勝てなくて成績は下降した。
そうなってくるとこれまでに乗っていたような馬は別の騎手が乗るようになって、誰もが傘を差し出してはくれなくなった。
子供の頃から憧れて好きで始めた仕事なのに週末が楽しくなかった。
今思えば復帰が早かったと思う。
でも怪我をするといつも逸る気持ちが抑えられない。
これが難しい。
だからそういう状況に陥ったのは誰のせいでもない、自分のせいだと考えていた。
結果を出せないのは自分が悪いと。
それでも応援してくれる人がいて、でも結果を出せないときは辛かった、しんどかった。
でも頑張るしかなかった。
このジョッキーという仕事を嫌いにはなりたくなかった。
負けてたまるか、腐ってたまるかと悔しい気持ちを歯食いしばってレースで乗り続けた。
そんな俺を見て和也はどう思ったのだろう。
成績がデビュー以来最低だった年、和也から食事に誘われた。
珍しいことだった。
「武岡さん」
「ん？」
確か食べたのは焼肉だったと思う。
肉をジュウと焼く音が蘇ったから。
「俺、武岡さんを追いかけたいんですよ」
「いつまでもお前の憧れの武岡やないで」
自虐めいて言った言葉に和也の目は曇る。
「親父が死んで葬式で頭を撫でてくれた人や競馬場で俺の夢を肯定してくれた人はどこにいったんだろう」
自分では表面的には変わらないようにしてきた。
勝っても負けても淡々と次へ向かう。
それが自分なりの美学だった。
騎手は一人ではできない。
でも紙一重に騎手は孤独でもある。
最終的には騎手に任される部分は大きいし騎手を駒のように扱う人だったら責任をなすりつければいいから。
その孤独は騎手それぞれにあるはず。
だけど色合いは異なるから分かりあえるとは思えない。
「親父を落馬事故で亡くして俺は道しるべを失った。あのときの武岡さんがかっこよく思えて、俺はあなたに憧れた。でも今の武岡さんは違う」
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作者名：ユタカ | 作成日時：2021年1月27日 9時
