Past Story ページ7
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とあるレースのパドックの控室。
騎乗合図まで座って待っていると和也が隣にスッと座ってきた。
お前たち仲良いなという視線を周囲から感じた。勘弁して欲しいと思いつつ。
「和也」
「はい。何ですか？」
満面の作られた笑みを向けられる。
鳥肌が立った。
「……気持ち悪いな」
「可愛いの間違いじゃないですか？」
「よくぬけぬけとそういうことが言えるな」
いつもの下らないやり取り。
一部のファンは俺と和也のコンビが好きとかいう話があるがよく分からない。
最近和也たちとの過去を振り返った。
中には彼らのお父さんのことも。
自分の視点からの彼らを振り返ることはすなわちそのときの自分を振り返ることになる。
でも彼らを振り返るわけだから自分への比重は軽くなる。
多少傷や影を見ることはあってもそれほどじゃなかった。
30年やっているだけあって様々な名馬との出会いもあり自分の騎手人生を振り返る機会は各方面でしょっちゅうある。
そういったものに答えるのもファンサービスだと思うから平気だ。
自分自身が辛かったときもあのときはと言える。
なのにあのときは途中からどこかに苦しさを覚えた。
人間は生の感情を見せるとき緊張する。
でも仮面を被ればカバーされる。
彼らと一緒にいることで掘り下げられることで仮面が剝がされていったのだろう。
彼らのフィールドに入れば対岸で余裕ぶってるわけにはいかないから。
「止まーれー」
騎乗合図がかかり立ち上がる。
グローブをはめて鞭を脇に挟んでヘルメットの紐を締める。
レースへ向けてスイッチオンだ。
「武岡さん」
「何や」
「なんでもないです」
たまたま枠が隣でまた気持ちの悪い笑みを浮かべられた。
「……気持ち悪いな」
「5レース、乗馬！」
もっと応酬したかったところだが、馬に乗るから諦めた。
よく絡んでくる和也がデビューして15年経つ。
二宮さんとの繋がりからあいつを可愛がること15年。
和也との出来事はこないだAちゃんに語ったが、あれは和也の騎手人生を軸にしていた。
当然空白がある。
だから今日も少し過去の話をしよう―――。
＊
遡ること7年前。
俺はとある重賞レースで落馬負傷した。
今でもその映像を見ると衝撃的で、こうして無事に競馬に乗れていることが奇跡的だと思う。
その当時の記憶は朧気だ。
多分身体に余程の衝撃だったんだと思う。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2021年1月27日 9時
