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その日のレースを終えた俺はそのレースを確認した。
そこには目を覆いたくなるような映像があった。
最後の直線、武岡さんの乗っていた馬が故障発生して前から投げ出されるような感じで武岡さんは馬場に叩きつけられた。
その後の報道で武岡さんの怪我の詳細が出た。
実際の所どうなんだろうと思った。
なかなかお見舞いに行く勇気が出なかった。
何だろう、現実を知るのが怖くて。
でも何もしないのはおかしいから電話はした。
「もしもし武岡さん？」
「おうお前か」
「元気です？って訊くのも変ですけど」
「ああ。左肩以外は元気やで」
声は元気そうだった。
肩さえ万全ならいつでも乗ってそうだった。
「じゃあ時間が出来たらそちらにお見舞いに行きます」
「ああ。待ってるで」
短い電話だけじゃ全ては分からない。
やはり会ってみなければと思って、春天で京都に来た翌日、武岡さんの家を訪れた。
「正直なところどうなんですか？」
俺は単刀直入に訊いてみた。
「正直なところ今までの怪我とは違う」
武岡さんはこれまで周りがびっくりするような早さでターフに帰ってきた。
だけど表情からも長くかかりそうな感じがした。
「俺は待ってますよ。いつでも。武岡さんのいない競馬面白くないんですもん。あなたと一緒に乗って俺が勝つ。それがしたくて騎手になったんですから」
全部俺の本音だった。
競馬は勝ってナンボ。相手が誰であれ勝つことが全て。
だけど武岡さんがいないと達成感が薄かった。
「競馬は一対一でするもんやないで。それに俺だけやなくて他にもいるやろ、上手い人」
今でも思ってる部分はある、自分が一番上手いって。
だけどこの頃は本気でそれしか思ってなかった。我ながら自信過剰。
「外国人が来たときは燃えますけどね」
「じゃあ俺がいないんならお前が勝つしかないな」
「そうですね」
なんだか空しかった。
この人のそれがどうも本音ではない気がして。
元々どれが本音かが分からない人だった。
どうしたって武岡豊和は「武岡豊和」だからどうしようもないのかもしれないけど。
自分の気持ちは自分しか分からない。
それはそうだとは思うけど本心を言ってくれないのはやはり寂しい。
そのとき俺は初めてあの人の影を見た気がした。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2021年1月27日 9時
