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「引退するんやってな」
「お世話になりました」
「その後はどうするん？」
「外から競馬を見て伝えられるようにしたいです」
「頑張ってな」
また一人俺は騎手を見送った。
こうして彼女は7年間の騎手生活にピリオドを打った。
＊
こうして眺めてみると自分は恵まれた位置にいるなと思う。
先程俺は勝つためには小さなチャンスを見逃さないと考えた。
だけどそのチャンスさえ与えられなければ虚しいばかりだろう。
早くに鞭を置く騎手は上昇する機会さえもらえないままな場合を俺は見てきた。
じゃあ小さくてもチャンスをもらうにはどうすればいいか。
結局は人なんだよなと思う。
「Aちゃんはまたジョッキーになりたいなとか思わない？」
実際試験を受けて復帰している人もいるから訊いてみる。
「もう引退するって決めた時点でその気持ちはなくなってます。今はライターの仕事が楽しいです」
こうして堂々と言えるのが羨ましくなった。
「武岡さん」
「ん？」
「ジョッキー太田Aはどうでしたか？ライター太田Aは伺ってるので」
「Aちゃんはね、センスがあった。それは女性独特のもので男にはないものだった。でも人にあまり恵まれなかったかな。君の師匠は良くしてくれたけど他は……と思うし、馬主さんの理解がないと難しいからね」
「そうですね」
「あとAちゃんは良くも悪くも直情型じゃない？さっき自分でも言ってたけど馬は手綱を通して乗り手の気持ちが分かってしまう。だからいかなる時でも冷静に努めることが大事。勝ちたいって気持ちが先行しちゃうと時に判断を誤るからね。ライターのAちゃんはそれでもいいけど、ジョッキーのAちゃんはそこが良くなかったかな」
これは彼女がジョッキーを辞めてるからこそ言えるんだよね。
現役中は意地とプライドがあるからなかなか他人の言うことに耳を傾けづらいから。
「Aちゃんはライターが天職やったんやろうね。そういえば先週の記事良かった」
「アカシがファンに人気なのも太田ちゃんの記事が一つあるよね」
「これからも頼むよ、チームアカシの広報さん」
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作者名：ユタカ | 作成日時：2020年7月16日 10時
