To the【ars】 (ページ45)

今日:31 hit、昨日:0 hit、合計:10,693 hit

・ページ45

・

ではそこから踏ん張り上げていくにはどうすればいいか。
それも単純なこと。勝っていけばいい。
じゃあ勝つにはどうすればいいか。
技術を磨く、トレーニングをする、小さなチャンスも見逃さない。
それをコツコツと積み上げていけば必ず勝てる。
好循環を促すのも悪循環を生むのも自分だ。そしてそれを見ててくれる人がいる。
だから俺は頑張れた。

「……それで騎手を辞めようと思ったの？」

「はい。勝てなくなって依頼がなくなって。これじゃただの調教助手だっていう変なプライドがあって」

「分かるよ。俺も勝てなくなって依頼がなくなったらいよいよかもって。和也は？」

「俺も騎手でいる意味がなくなったら辞めますよ。潤くんのところでお世話になります」

「騎手は定年がありませんからね。厩舎スタッフは65歳までって決まってますけど」

「そうなんだよね。続けるのも辞めるのも自分次第。まあそこはプロのスポーツ選手やって認められてるってことか」

＊

さてAちゃんが引退した時期に時を戻そう。

Aちゃんが騎手免許を更新しないらしいというのは風の噂で関西にも伝わってきた。

「A引退するんかな？」

「だろうね。助手にでもなるのかな」

Aちゃんの代表的な同期である藤代佑太郎と川崎将大が話していた。

「武岡さん何か聞いてます？」

「いや？和也なら何か知ってるかもな」

そう言えば後輩二人は和也さんに訊こうとなったのには笑ったけどな。
それぐらいの認識だった。

ということで関東に来たときに和也に訊いてみた。

「……という風の噂があるんやけどホンマ？」

「ホンマですね」

藤代と川崎にも訊かれましたよと和也は続けた。

「昨年末引退するって言われたんですよ。助手の席は空いてなさそうならライターをやってみたらと勧めてみました」

その調子は少し冷たいように感じられた。

「惜しむとかないんやな」

「止める理由はないですよ。辞めようと思ってと言われたので2月で辞めるのねと返しました。本人がそういう考えに至ったのならばしょうがないですよ」

「へえ」

思えばこの頃から親しかった二人の間が歪むようになったのかもしれない。
でもだからといってなんだが。

風の噂はマスコミにも伝わり記事となった。
すっかり若手の一人として埋もれていたAちゃんが久々に記事になっていた。

報じられた後Aちゃんとコンタクトを取れた。