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競馬はセパレートコースでやるわけじゃない。
馬込みの中でレースをしていて手応えがあったとき、制裁に引っかからない程度にこじ開けることが出来るのか、どうしても先手を取りたいときに取れるのかとかそういったことはレースに乗って経験するしかない。
彼女にはそれが出来るのか。
残念ながら男女の差というのはある。
男ではクリアできても女には出来ないもある。
そうして勝てずに辞めていった女性騎手を何例か見てきた。
だからこそ彼女に注目が集まっていると俺は考えた。
彼女は真面目に頑張っていた。
性格上あまり声は出せないようだがそれでも勝ち星を積んで1年目は8勝を挙げた。
＊
「やっぱり自分のことを話されるのは恥ずかしいというか照れますね」
Aちゃんは終始こんな調子だ。
「武岡さんがAの話をするっていうから昔の写真探してみたんですけど、デジカメにあったのをデータに入れときました」
和也が見せる写真には俺や和也、Aちゃんなどのジョッキー仲間が映っていた。
「これ何の写真？」
「何でしょうね？関東の騎手は俺とAだけですね」
「あとは祐二に謙太に将大もおるわ。何年のやった？」
「2008年の5月ですね。G1のあとに集まったんでしょうか？Aは覚えてる？」
「先輩には色々な所に連れていってもらいましたけど……関西の皆さんがいたのは覚えていますが」
「案外覚えてないもんですね、皆さん」
酒が入っちゃうと案外覚えてないもんだ。
そこで何を話したかを誰かが覚えていれば記憶が繋がるかもしれないのだが。
「にしても俺若いわ」
「私も若くて……」
「俺は変わってないね」
「ニノ変わってるよ。毎日見てたら分かんないかもしれないけど」
さっきから相葉くんが容赦ない。
なるほど、二人の関係性が見えてきた。
「1年目のA良くやってた方でしょ。師匠は無下にしなかったし松本先生も乗せてたし」
「うん。徐々に上手くなってきたなって思ってた」
「一応参考程度にAの成績表です」
机の上に置かれたタブレットには8年分のジョッキー太田Aの記録が書かれている。
俺はこれを参考に舵を切っていく。
＊
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作者名：ユタカ | 作成日時：2020年7月16日 10時
