・ ページ41
・
「うるさいな。関東の人はともかく関西の人たちにはデビュー当時から武岡さんを始め可愛がってもらってるし」
「そう思うなら親父さんに感謝するんやな。俺がお前に目をかけてるのは二宮さんが俺を可愛がってくれたからというのが少なくともあるんやから」
また話が脱線していく。
それはともかく。
「せやから随分仲良くしてるんやなって思ったんや」
「……じゃあAがデビューしてからは？」
＊
年が明けて3月。
Aちゃんがプロデビューした。
JRAが宣伝に力をかけていたからか普段は見ない数のメディアが集まったことが当日阪神にいた俺にも伝わった。
彼女のデビュー戦をたまたまリアルタイムで見た。
他のジョッキーも画面の周りにいたことからも注目度が窺えた。
初戦は8着に終わったけど馬のレベルを考えたら仕方なしとも言える。
まだ追い方にひ弱さがあったけどスタートは出るし馬との折り合いもついていた。
あとは実戦の経験で磨くしかない。
初勝利を挙げたのはデビューしてから1ヶ月経った頃だった。
逃げ切り勝ちだった。
そのときも多くのマスコミが取り上げてたっけ。
その間に同じ競馬場で会った。
橋渡しは相変わらず和也だった。
「この人成績はとにかく凄いし競馬界内外問わずのスターだけど普段は普通の関西人のおっさんだから。疑問に思ったことは訊いていい」
「余計な言葉が多いけど何でも訊いて。最近の若い子らはなかなか訊いてくれへんし」
「……はい。あの今日のレースで……」
そう言ってAちゃんは負けたレースについてアドバイスを求めてきた。
具体的に尋ねてくれたからこっちも具体的に返せた。
頭の良い子やなと思った。
その彼女が去った後。
「和也はあの子のことどう思ってる？」
「センスはありますよね。小学生から騎手になりたいと思って乗馬をしてたみたいですし。俺や武岡さんは当たりが柔らかいですけどAは違った柔らかさがありますかね。あとは実戦経験ですね。競馬はセパレートコースではないですから」
「同感やな」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 23人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユタカ | 作成日時：2020年7月16日 10時
