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「そういえば今日和也は？てっきりあいつもいるかと思った」
「二宮先輩は取材が2本入ってまして東京に行ってます」
「そうなんや。フランス遠征や凱旋門のこと訊かれてるんかな」
「だと思います」
帰国してからの和也はこれまでと変わらない成績を残している。
約3ヶ月いなかった分もちろん数字は減る。
だけどそれ以上の経験をした和也は騎乗依頼に応え結果を出している。
それを見ていると負けられないなと思う。
「どうぞ」
「ありがとう」
緑茶が出てきた。
11月に入って寒くなってきたから温かいのは有り難い。
「松本くんはいつもこうして飲み物を？」
「そうです。お客様が来たときも皆が来てくれたときも。皆好みがあるから大変なんですよ」
大して大変じゃなさそうな顔で言った。
確かにキッチンの横に置かれている棚にはコーヒーの粉や紅茶のパックがある。
きめ細かさが窺える。
「じゃあ話そうかな。と思うんだけど大野くんとも相葉くんとも接点が薄いから薄い話になるな」
「ではお二人のお父様も交えたお話にするのはどうでしょうか？」
「ナイスアイデア。それなら多少厚みが増す」
＊
新人最多勝、2年目でのクラシック制覇などを果たしてメディアでは天才などと謳われていた頃。まだ東西の意識が強かった頃。
関東の人からすれば俺は生意気な若造というふうに映ったのだろう。風当たりが強いなと思うことはしばしばだった。
今の時代そんなことをしたらパワハラで訴えられると思うから俺は絶対しないけど。
そんな中で俺に手厚くしてくれたのは当時騎手だった二宮さんと相葉さんと大野さんだった。
3人とも俺に優しかった。それが嬉しかった。
二宮さんにも良くしてもらったけどそれは話したから割愛するとして。
相葉くんは好青年だなという印象があるが、相葉さんも優しかった。
「豊和。関東が嫌になることがあるかもしれないが依頼があれば来いよ。俺たち三人が歓迎する。お前は競馬界の新しい風だ。ベテランもアンちゃんもお前を見習うべき点が多い」
俺の頭を撫でた手は温かかった。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2020年7月16日 10時
