To the【ars】 (ページ28)

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今ではマシになったけど競馬サークルは封建的で閉鎖的で独特だ。
だからか認められない人はなかなか認められない。
松本くんはそれだと思った。

案の定彼は言われていた。特に厩舎関係者から。
それこそあの親子に自分の身内を殺されたのかっていうぐらい口さがない奴もいた。

ただ単に助けてあげたいなと思った。
何の関係もないかもしれない。
だけど散々苦しんだんだからもう良いだろうと思うのは自己満だろうか。

さらに時は流れ彼は一発で調教師試験に合格した。
28歳で合格したということ、名伯楽の息子ということ、その容姿から話題を呼んだ。
そしてやっぱりコネだの何だの言われた。
自分が言われるのはどうでもいい。でも他人が、気にかけてる子が言われるのは癪に障る。

「合格おめでとう」

「ありがとうございます」

「主戦は和也だろうけど和也が乗れないときは乗せて下さい」

「はい喜んで」

騎手として叶ったら良いなと思うことが増えた。彼の管理馬でG1を勝つこと。
彼がお父さんを凌駕するような結果を出せば雑音が減る。その力添えが出来ればいいと思ってる。
まあ主戦が和也なのでそれは叶っていないけど。

＊

「そんなこと思ってたんですね」

「思ってたよ。でもこいつが主戦だからねこればかりは。例えばね櫻井くんが松本厩舎に良い馬をたくさん入れて都合良く2頭が出世して片方が和也でもう片方が俺というのが理想だけど……一騎手のわがままやけどね」

理想を言ったらキリがない。
理想通りにいかないのが競馬だということは重々承知してるがたまに理想通りいくのも競馬。
松本厩舎は年に何鞍か程度だからなかなか難しいけど。

「潤ならこの馬と思って入れてるんですけどなかなかアカシのようには」

「競馬やからな。櫻井くんの相馬眼だってよくは走るけど全部じゃない」

「そうですね。こればっかりは。……でも潤はねいつも申し訳なさそうにするんです。潤の手腕でもどうにもならないことだってあるのに」

「潤くんは自己肯定が苦手なんですよ」

和也は腕を組んだ。

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