To the【ars】 (ページ24)

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とある人の視点３ページ24

その話は栗東の、新人ジョッキーだった自分の耳にも届いていた。

「奥さんを亡くした美浦の松本先生が不倫相手とその子供を迎え入れたらしい」

競馬界というのは狭い世界だから悪いことというのがすぐ広まる。
松本先生にそういう相手と子供がいるらしいというのは自分が競馬学校にいるときから広がっていて、それはどうなんだって話は栗東でもあった。
俺はそんな話に興味がなく話には参加しなかったけど。

そうなってくるとその相手は後妻さんとか疫病神とかその子供には不義の子とか無関係な人が口々に言う。
たとえ事実だとしても他人を傷つける言葉をチョイスする神経が分からない。
そこには悪意しかない。

その子供、松本くんを初めて見たのは中山競馬場だった。
松本先生の傍で大人しくしてたという印象だ。
周囲な目は好奇と軽蔑に溢れていた。

次に見たときは隣に和也がいた。
チラッと見ただけだけど和也が松本くんに尽くしてる感じがした。

さらに見たときには大野くん相葉くんがいた。
こういうときって子供たちの方が分かってるんだよね。

「君は面白そうにとか不快そうに見ないんだな」

そんな光景を見ていたらあるとき松本先生に声をかけられた。
既に名伯楽と謳われていた先生にどう答えればいいか迷ったがありのままを伝えた。

「……先生のしたことに御子息は関係ないと思ったので」

すると松本先生にハハハッと言った感じで笑った。

「君は二宮たちと一緒だな。面白い。天才はそうでなくっちゃな」

何かが松本先生の中で良かったらしくそれ以来関東に来たときは平場でも依頼してくれたりG1や重賞の依頼もいただいたりした。
松本先生とG1を勝てたのは良い思い出だ。

＊

「それがこの写真」

写真を机に乗せると懐かしいと声が挙がる。
事務所にあったのを持ってきた。

「これ全員いるじゃん」

「本当ですね」

「俺や大野さん相葉さんは関係ないのに便乗してたね」

ここは櫻井RHのオフィス。
そこに櫻井くん、和也、Aちゃんがいる。

何でここにいるのかといえばAちゃんによる回顧録の取材のため。
昨日東京で乗ってたのでじゃあ今日Aちゃんの取材を受けるかとなったが場所どうする？ってなった。
じゃあ場所お貸ししますよと言ったのが櫻井くん、俺にも参加させろと言ったのが和也だ。
きっと俺とAちゃんがいるのが気にいらなかったのだろう。男子中学生か。