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「今年のセレクトセールで何頭か買われてるんですね。あとはこれといって……」
「彼のお父さんの名前が言えないからなあ。ごめんね」
「そこは櫻井さんとは違うんですね」
「付き合いが違うから」
何でも俺だってベラベラ話すわけじゃない。
それこそ墓場まで持っていってやることの一つだ。
「櫻井さんを気に掛ける理由も二宮先輩と一緒ですか？」
「うん。一緒。戦うんだったら万全の櫻井くんと戦いたいだけ。吹っ切れた彼と話すのは楽しかったよ」
「そこから櫻井さんに樋口さんを紹介した」
「それで動揺させて俺自身も彼に揺さぶりをかけた」
「……そこは人が悪いですね、武岡さん」
「そう？人間は考える葦やで？俺は神でも仏でもあらへんからそう易々と教えへんわ」
「……やはり武岡さんサディスティックです」
「やはり？」
「レースを見ても感じますよ」
「……よう分からんわ」
競馬だからね。
相手の馬の弱点を知っててそこを的確に突くというのも戦術の一つだから多分そういったことを言ってるんだろう。
「それで櫻井さんは」
「ちゃんと自分で考えて導き出した。櫻井RHに残ることを決めてお父さんに作ってた壁を壊した。大したもんだよ」
「その樋口さんとは」
「騙した形になっちゃったから……。櫻井くんが自分のところで勉強しないかって誘ってたけどどうなんやろ」
でもきっと競馬が好きだったらまた動いてくれると思ってるけどね。
何とも他力本願だが。
「櫻井くんについて語れるのはこれぐらいかな。意外と短かったな」
「でも櫻井さんの人物像に奥行きが増したと私は思います」
「これはさすがに使えへんやろ」
「そうですけど……。書き方が少し変わるかもしれないですし……櫻井さんには幸せになって欲しいと思いました。どういう視点での感情なのかは分からないんですけど」
「俺も思うで。彼の人生に幸あれって」
まあ彼の人生の闇を少しは取り払えたのかななんて自己満足。
「今回もありがとうございました」
「こちらこそ。次は誰にしようかな」
「あと3名ですね」
「いや4名」
「私もですか？」
「言うたやろ。俺が気にかけてるのは5人とAちゃんやって」
「なんかそれは恥ずかしいですね」
「まあそのときは一対一でなくてもいいか」
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作者名：ユタカ | 作成日時：2020年7月16日 10時
