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「樋口良隆と申します。よろしくお願いいたします」
「私の馬主の方を手伝ってもらうことにした。こいつは競馬に興味があってゆくゆくはオーナーブリードをやりたいそうだ」
「ほお」
「こちらをご覧ください」
そう言って樋口さんは大いなる野望を聞かせてくれた。
熱意は素晴らしいと思った。でも壮大すぎて想像ができなかった。
「武岡さんは櫻井翔さんと親しいんですよね？」
「うん。親しいけど……」
「では紹介していただけませんか？」
「それは構わないけど……何で？」
櫻井くんは確かな相馬眼がある。でもそれは天性のものと言っていい。
ライバルとなり得る人に何を？というのが単純な疑問だった。
「実は……櫻井さんを引き抜きたいと考えているんです」
「えっ？」
「以前から櫻井さんのお話を伺っててセリや庭先で取引した良い馬をまずはお父様に選んでもらってそれをRHの馬にして残った馬を自分の所有にしてるんだそうですね。アカシもその残った馬だとか」
そこらへんの話はわりと多くの人に知らされている。
櫻井くん不自由やなと言ったのは謙太だったか。
俺も思ってた。櫻井くんは自由だけど不自由だと。
その辺りも彼の闇を深くさせた原因だと思っている。
なんとかしてあげたいなと思う気持ちはどこから来ているのか分からないけど思っていた。
だけどクラブの方針、親子間の話にただの騎手が口を挟めるわけじゃなく。ただ見てただけだった。
俺は閃いた。
彼を利用するようで申し訳ないが俺は櫻井くんのことをさらけ出すことにした。
墓場まで持っていくことだって可能だけどそれじゃ彼のためにならないと判断した。
来たるべき時が来た。
俺は俺にゴーサインを出した。
＊
「……というわけで」
「樋口良隆さん……。少し調べてもいいですか？」
「ええで。……あっこれ彼からもらった名刺」
捨てずに事務所に置いていたものを彼女に見せる。
「ありがとうございます」
Aちゃんはタブレットを取り出して打ち始めた。
そういえば樋口さんあれきりお会いしていない。競馬場では見かけるけどそれだけだ。
やっぱり利用したのがまずかったのかな。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2020年7月16日 10時
