To the【ars】 (ページ20)

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「そこからどうなさろうと思われたんですが」

「とりあえず秘密は抱えようと思った。そして来たるべき時が来たら本人に伝えようと思った」

「それはどうしてですか？」

「それは後で説明するね。……驚いたやろ」

「あるんですねそんなこと本当に……。櫻井さんも櫻井さんですが、武岡さんも人が良すぎますよ」

「うーん、あの告白は不可抗力やったからね」

「にしてもですよ」

Aちゃんの声の様子から櫻井くんか俺に同調してるなと感じた。
Aちゃんは感情に素直すぎるところがあって自分の乗っていた馬が予後不良になったときはボロボロだった。
騎手はやっぱり感情をコントロールしないと馬と呼吸を合わせることができないのでそこは彼女の騎手としての弱点だった。

「武岡さんは墓場まで持っていくことが多そうですね」

「……それにはイエスともノーとも言えへんわ」

30年この世界でやってきて酸いも甘いも経験してるから、というよりその繰り返しだから。
言ったらアカンやつをずっと言わないようにしてたらそりゃ墓まで持っていくことになるかもしれない。

「それでも武岡さんは櫻井さんに普通に接した」

「当たり前やん？来たるべきときが来たらと思うてるのにそれを出しちゃ。まあ彼がこちらに普通に接してくれるから俺もそういうふうにするといいますか」

「櫻井さん絵に描いたような好青年ですからね」

「ホンマな。だからイケメンすぎる馬主なんて言われる」

「ご本人はそれ嫌がってましたね」

「そりゃ嫌がるよ」

俺もデビューして勝ち続けていたら天才なんて言われて今ではレジェンドというワードが多用されている。
あくまで外からの言葉なので額面通りにしか受け止めてないけど見た目だけで判断されるのは確かに好まない。

「それからどういう経緯で櫻井さんにお伝えしたんですか？」

「それが偶然というか……」

＊

こう長くやっていると馴染みの馬主さんは増えていく。
これはオフィシャルにしたくないらしいから言わないけど某馬主さんから自分の隠し子を紹介された。

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