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そこからは和也介さなくても競馬場で見かけたら声をかけて、向こうからも話しかけてくれるようになって今のようにフランクな関係になったと思う。
＊
「私もそう思ってます」
そう言ったのはAちゃんだった。
「櫻井さんって普段はお優しいんですけど一歩踏み出せば闇に堕ちそうといいますか藪をつついたら蛇が出そうといいますか」
「うん。分かるで」
それを引き留めているのが和也たちであり野々村さんであると思う。
「でも裕福な家庭でも、いやだからこそ色々あるんだろうという見方しかなかったんですが……武岡さん何かご存知ですか？」
俺だったら何か知ってると踏んだわけかな。
まあ和也たちはそういったことをベラベラ話す人たちじゃないから知らされてないのは当然のことだろう。
「そう。裕福な家だからこそ色々ある。これから話すことが俺の話の肝かな。本人の許可は取ってるからAちゃんは気にせず聞いといて」
＊
あれは14年前のことだと記憶してる。櫻井さんに誘われて食事に行った。
普段は馬主さんとして接してるけど馬主さんということは必ずお金に余裕があるどこかの会社の社長なのだ。当然食事というとステータスやグレードが高い。
櫻井さんはかの有名な櫻井ホールディングスの当時の社長。この時も例外じゃなかった。
俺はこのときですでにそういった経験を積ませてもらってたからそういった面での緊張はなかったけど櫻井さんと二人きりという面で緊張した。
あの方の表情からもただならぬ感じが伝わってきた。何やろうとただ思った。
最初は前菜を食べながら他愛のない話をした。メインが来たときは普通に馬の話をした。
そして終盤に差し掛かったときにそれを聞かされた。
「実は一口クラブ法人を立ち上げようと思ってね。そこの代表に翔を据えようと計画してるんだ」
「そうなんですか」
「武岡くんは翔を気にかけてくれてるね。和也くんに対しても面倒見が良いって聞くし」
「和也は亡くなった二宮さんとの縁がありますから。翔くんは未来のある有望な若者ですから」
「私から見れば君が若いがね」
「いえいえ。僕はもう三十路を過ぎましたし後輩の方が多くなってきましたから」
その場に相応しそうな軽口を叩いていたら櫻井さんがだんだん神妙な面持ちになっていくことに気付いた。
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作者名：ユタカ | 作成日時：2020年7月16日 10時
