To the【ars】 (ページ16)

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とある人の視点２ページ16

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彼との出会いははっきりと覚えてる。彼のお父さんが馬主でその人の馬に乗ってたから。

「こっちが次男の翔です」

「こんにちは」

「……こんにちは」

そのときからなんとなく影のある子供だなと思っていた。
確かそのレースは勝った。その口取り写真を櫻井くんは持っているらしい。

彼はしょっちゅう競馬場で見かけた。いつもお父さんの後をついて来ていて和也たちと和気藹々としていた。
それを俺は微笑ましく見ていた。

あるときこんな噂を耳にした。

「武岡さん知ってますか？馬主の櫻井さんの馬を御子息の翔くんが選んでるらしいですよ」

「それホンマか？あの子まだ小学生やろ」

後輩の誰かが俺にそう言った。
確かに櫻井さんの馬はよく走っていて乗れたら乗りたいと多くのジョッキーが思っていた。

「でも本当らしいんですよ。息子さんをセリや牧場にまで連れていって、まるで欲しいおもちゃを選ぶみたいに馬を選ぶ。でもそれが走る。巷では櫻井さんを神の相馬眼を持つなんて言われてるみたいですが、神の相馬眼は翔くんかもしれませんね」

俄かには信じがたかった。
小学生の子供にそんなのがあったら天性以外の何物でもない。
それにしてもセリや牧場にまで連れていくなんて競馬の英才教育をさせて馬主業を継がせるつもりなのか、もの凄く可愛がっているのか。

そんなことを考えていたら事実は少し異なっていた。

＊

「彼の最初の印象はこんな感じかな」

「その頃から言われてたんですね櫻井さん」

今回もまたAちゃんに話している。
だけど今回は場所が違っていて俺の事務所として使っている場所だ。
事務所といってもこれまでもらったブロンズ像やレースの写真や他のアスリートから頂いたものを飾っているスペースなんだけど。

本当は関東に来たついでにというのが筋なんだろうけど、Aちゃんがわざわざ来てくれるというのでお言葉に甘えて来てもらった。
場所を変えたのはまたあそこじゃ芸がないと判断したためだ。
それでもあいつが何て言うのかと考えるとめんどくさいけれども。

今回は櫻井くんの話となった。
彼の話をするに至って、あのことは避けては通れないと思ったので彼に了承を取るのが礼儀だろうと思い彼に伝えた。
すると櫻井くんは太田さんを信用しているので大丈夫ということと、いずれ話すつもりでいたというので今回が実現した。

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